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妊娠中に親知らずがズキズキ! 抜歯は出産後?安全に乗り切る判断ポイント

 

妊娠中に親知らずが痛むのはなぜ?──ホルモン変化と炎症リスクを知る

妊娠期に起こるエストロゲン増加と歯ぐきの腫脹メカニズム

妊娠するとエストロゲンとプロゲステロンが急激に上昇し、全身の血管透過性が高まります。歯ぐき(歯肉)にも同様の変化が起こり、毛細血管内の水分が組織間隙へ染み出しやすくなるため、わずかな刺激でも腫れや出血が生じやすい状態になります。

親知らずは奥に位置してブラッシングが届きにくく、萌出途中で歯肉に半分埋もれていることも多い歯です。歯肉がむくむと周囲に“ポケット”ができ、食片とプラークが停滞しやすくなり、細菌叢が一気に増殖します。この細菌バイオフィルムが炎症を引き起こし、ズキズキとした痛みや拍動を伴う腫脹へとつながります。妊娠期特有のホルモン環境が、親知らず周囲炎(智歯周囲炎)の発症を後押ししているのです。

 

免疫バランスの変化がもたらす細菌増殖と急性炎症リスク

胎児を異物と認識しないよう、妊娠中の免疫系は一時的に抑制モードへシフトします。白血球の貪食能や炎症性サイトカインの産生は低下し、本来なら抑え込まれるはずの嫌気性菌(Porphyromonas や Prevotella など)が優位になります。

とくに親知らず周囲は酸素が届きにくいため嫌気環境が整いやすく、細菌が爆発的に増えて急性炎症を引き起こすリスクが高い部位です。腫れが進行すると口が開けにくくなり、咀嚼や会話にも支障を来すことがあります。免疫抑制と局所環境の悪化が重なり「夜に痛みが増す」「頭痛や耳下の違和感を伴う」といった症状が短時間で現れるのが妊婦さん特有の特徴です。

日々のセルフケアではプラークを機械的に除去することが不可欠ですが、ブラッシングが届かない場合は歯科的クリーニングで病原性菌を早期に減らすことが炎症コントロールの要になります。

 

痛みを放置すると起こり得る母体・胎児への影響(全身感染・早産リスク)

親知らず由来の炎症を放置すると、周囲の骨膜や咬筋間隙に膿が広がり、蜂窩織炎や顎骨骨髄炎へ進展する恐れがあります。感染が血流に乗る「菌血症」を起こすと、母体に発熱・頻脈・倦怠感などの全身症状が現れ、子宮の収縮を誘発するプロスタグランジンが増加することで早産・低体重児出産のリスクが高まると報告されています。

また、急性痛によるストレスや摂食障害は妊婦の栄養状態を低下させ、胎児の発育に負の影響を与えかねません。したがって「妊娠中だから歯科治療は避けたい」と先延ばしにするのは得策ではなく、痛みや腫れが出た段階で歯科医に相談し、炎症の鎮静化を図ることが母体と胎児を守る最善の選択になります。

適切な局所処置と安全性の確立された薬剤の併用で多くの症例は短期間で症状が緩和できるため、早期受診こそが将来のリスクを最小化する鍵となります。

 

まず確認!セルフチェックでわかる症状レベルと緊急度

腫れ・発熱・開口障害など危険サインの見分け方

親知らずまわりの痛みは、単なるうずき程度から顔貌が変わるほどの腫脹まで幅があります。とくに注意したいのは〈歯肉の急激な膨隆〉〈局所が熱を帯びる〉〈38 ℃以上の発熱〉〈口が指2本分しか開かない〉といった所見です。

腫れは炎症による浮腫のほか、膿瘍形成の前兆である可能性もあります。鏡で患部の色調を確認し、暗赤色や白濁した膿点が見えたら細菌感染が進行している証拠です。また、嚥下時に喉の奥へ放散する痛みや頸部リンパ節の腫れを伴う場合、炎症が深部組織へ波及しているおそれがあり、緊急受診が推奨されます。

セルフチェックを日課にし、「いつもと違う腫れ方」「痛みの質が拍動性に変わった」「体温が上がった」など、時間経過と症状の変化を記録しておくと、受診時に病状を正確に伝えやすくなります。

 

妊娠初期・中期・後期で変わる「要受診レベル」の基準

妊娠初期(0〜11週)は胎児器官形成の最重要期であり、医科歯科問わず侵襲的処置は可能な限り回避されます。そのため軽度の痛みでも胎児へのストレス・薬物投与リスクを天秤に掛け、抗菌薬や鎮痛薬の必要性を慎重に判断する段階です。

妊娠中期(12〜27週)は全身状態が比較的安定し、局所麻酔や短時間の小手術が安全域に入る期間とされています。親知らずの炎症が繰り返す場合、この時期に限って抜歯を検討する症例もあります。

後期(28週〜出産直前)は子宮底の上昇により仰臥位低血圧症候群や誤嚥のリスクが高まるため、処置そのものより体位管理が重要です。したがって後期は「腫れが軽度でも呼吸・嚥下に影響しそうかどうか」が受診判断の分岐点になります。

トリメスターごとに〈症状の強さ〉だけでなく〈母体・胎児への二次的影響度〉で総合判断することが、安全性を確保するうえで欠かせません。

 

「市販鎮痛薬で様子を見る」前に医師へ相談すべきケース

妊婦さんが自己判断で鎮痛薬を選ぶ際は成分と妊娠週数への適合性を確認する必要があります。たとえば一般的なイブプロフェンは妊娠後期に胎児の動脈管早期閉鎖を招く可能性が示唆され、アセトアミノフェンも用量超過で肝機能へ負荷がかかります。

また、鎮痛薬で疼痛がマスクされると炎症の悪化に気づきにくくなる負の側面も見逃せません。次のような状況では「まず歯科または産科に電話相談」が原則です。

①痛み止めを服用しても2〜3時間で効き目が切れる
②飲食・会話が困難になるほどの疼痛
③頬や顎下の腫れが硬く広範囲に及ぶ
④発熱を伴う、または胎動が急に減少した

——これらはいずれも感染波及や全身炎症の予兆となり得るサインです。適切な診断と専門的処置を受けることで、結果として薬剤使用量を最小限に抑え、母体と胎児の安全を両立できる可能性が高まります。

 

妊娠中の親知らず抜歯は可能?──トリメスター別リスクと適切時期

妊娠12〜20週が比較的安全とされる理由(胎児器官形成後)

胎児の主要臓器は概ね妊娠10週ごろに形成を終え、12週以降は器官の成熟と体重増加の段階に入ります。この時期(いわゆる妊娠中期前半)は、催奇形性の高い薬剤に対する感受性が大幅に下がり、局所麻酔や抗菌薬を適正量で使用しても胎児への影響がきわめて小さいと報告されています。

また、母体側もつわりが落ち着き、循環動態が比較的安定するため、抜歯に伴うストレスや仰臥位での血圧変動が少ないのが利点です。術中は胎児への酸素供給を保つため左側臥位への体位変換やパルスオキシメータ管理を行い、処置時間を30〜45分程度に抑えることで安全マージンを確保できます。院内では産科主治医との連携を取り、術前の既往歴・現在の妊娠週数・服薬状況を共有しておくことが必須です。

 

初期・後期に避けるべき主な要因(流早産・仰臥位低血圧症候群)

妊娠初期(0〜11週)は胎児器官形成が最も活発で、わずかな薬理学的影響や母体高熱が奇形・流産のリスク因子となり得ます。さらに、つわりによる嘔気・嘔吐が強いと局所麻酔時の迷走神経反射が重なりやすく、血圧低下や失神を招く恐れがあります。

一方、妊娠後期(28週以降)は子宮底が横隔膜を押し上げ、長時間の仰臥位で下大静脈が圧迫される仰臥位低血圧症候群が問題になります。症状として冷汗・悪心・頻脈が出現しやすく、胎児低酸素を回避するためには頻回の体位調整や処置時間の短縮が不可欠です。

また、陣痛を誘発しやすいプロスタグランジン産生が術後炎症で高まる可能性が指摘されており、切迫早産歴のある妊婦では抜歯を延期する判断が優先されます。これらリスクを総合すると、初期・後期は鎮痛と感染コントロールに留め、緊急性がなければ中期の処置へ繰り延べるのが国際ガイドラインの一般的な推奨です。

 

出産後まで待つメリット・デメリットを比較

抜歯を産後に先送りする最大のメリットは胎児リスクを実質ゼロにできる点です。分娩後なら全身麻酔や静脈内鎮静を含む多彩な疼痛管理が選択可能で、難抜歯症例でもストレスを最小化できます。

しかしデメリットとして、妊娠期間中に炎症が再燃しやすく、感染が顎骨や頸部へ波及すれば入院管理や点滴抗生物質の投与が必要になる場合があります。さらに、産後直後は授乳・夜間育児で睡眠が分断され、自己免疫力が落ちやすい時期に重手術を受けるのは負担が大きいという現実も無視できません。

母体が長期にわたり鎮痛薬へ依存すると授乳中の薬剤曝露問題も浮上します。“待つ”選択が有益なのは①痛みが軽微かつ炎症が慢性化していない ②口腔清掃が自力で十分行える ③産科主治医が経過観察で問題なしと判断している——の三条件を満たすケースに限られます。

したがって「待つ・抜く」の決断は、症状の推移と妊娠週数、母体の全身状態を多角的に評価し、歯科医・産科医が連携して最適解を導き出すことが重要です。

 

麻酔・レントゲンは大丈夫?──安全性エビデンスを医師が解説

歯科局所麻酔(リドカイン系)の胎児曝露データと推奨量

妊娠中に用いられる局所麻酔薬の大半はリドカイン系で、FDA 旧分類では Category B(動物実験で催奇形性を示さず、ヒトで有害事象の報告がない)に該当します。臨床研究でも、通常の浸潤麻酔1カートリッジ(1.8 mL=リドカイン36 mg+エピネフリン0.018 mg)投与による胎児血中濃度は微量で、母体肝代謝により短時間でクリアされることが確認されています。

エピネフリン併用による局所血管収縮は麻酔効率を高めて全身投与量を減らす利点があり、適切な吸引操作を行えば胎盤通過量は臨界値を大きく下回ります。低容量で痛みを確実にコントロールするほうがストレスホルモンを抑制でき、結果として子宮収縮リスクも低減できる点がエビデンスで支持されています。

 

防護エプロン使用で胎児線量を最小化するデジタルX線

デンタル撮影1枚あたりの実効線量はデジタルセンサー使用時で約0.001 mSv、パノラマ撮影でも0.01 mSv前後にとどまり、国際放射線防護委員会(ICRP)が胎児への影響が認められない閾値とする50 mSvをはるかに下回ります。

さらに鉛入り防護エプロンとタイロイドカラーを併用すると腹部被曝は検出限界以下となり、胎児線量は自然背景放射線の1日分にも満たないレベルです。現行のデジタル装置は被写体感度が高く、撮影回数を最小限に抑えられるため「必要な情報を1回で取り切る」撮影計画が安全性向上に直結します。

術前後の比較撮影が不可欠なケースでは、被曝量と診断利益を説明したうえでインフォームド・コンセントを取得し、不必要な再撮影を避けることがベストプラクティスとされています。

 

処方薬(抗生物質・鎮痛薬)の妊娠カテゴリーと代替選択肢

術後感染予防に用いられるペニシリン系・セフェム系抗菌薬(アモキシシリン、セファレキシン等)は Category B に分類され、ヒトで催奇形性リスクが示されていません。ペニシリンアレルギーがある場合はクリンダマイシンが推奨薬ですが、長期投与による偽膜性大腸炎を避けるため3〜5日間に限定します。

鎮痛薬はアセトアミノフェンが第一選択で、24 時間最大投与量を 3,000 mg 以内に制限すれば胎児への影響はほぼ皆無とされています。NSAIDs(イブプロフェン等)は妊娠20週以降に胎児腎血流を低下させる可能性があるため原則避け、どうしても必要な場合は産科主治医と協議のうえ短期・最小用量に留めるのが国際標準です。

こうした薬剤選択と投与期間の最適化により、抜歯後の疼痛と感染を確実に抑えつつ母体と胎児の安全を両立できます。

 

抜歯を見送る場合の“妊婦さん専用”応急処置と痛みコントロール

抗菌うがい薬・冷湿布・食事指導で炎症を抑える方法

抜歯を延期すると決めたら、まず患部の細菌負荷と物理的刺激を最小限に抑えるセルフケアが欠かせません。クロルヘキシジン洗口液(0.05〜0.12%)は妊婦への安全性が確立されており、1日2〜3回・30秒間の含嗽でプラーク中の嫌気性菌を90%以上減少させることが報告されています。

強い泡立ちや刺激が苦手な場合は塩化セチルピリジニウム配合の低刺激タイプを選択するとつわり期でも使いやすくなります。痛みが増したときは清潔なガーゼで頬側から15〜20分間アイシングし、48時間以降に腫脹が落ち着いたら温湿布へ切り替えると血流が改善し炎症物質の滞留を防げます。

さらに、硬い食材や極端に温度差のある飲食物は炎症部位を刺激して疼痛を誘発するため、出汁で軟らかく煮た野菜・豆腐・白身魚など“温かすぎず冷たすぎない”軟食を中心にメニューを組むと、栄養バランスを保ちながら咀嚼負担を軽減できます。

 

安全な市販鎮痛薬の選び方と服用間隔

セルフケアで症状が緩和しない場合は、妊娠全期を通して第一選択とされるアセトアミノフェン単剤(1回300〜500 mg)を使用します。成人の妊婦では24時間で最大3,000 mgまでが推奨上限であり、4〜6時間の間隔を必ず空けることが肝機能障害予防のポイントです。

「眠気をおさえる」カフェイン配合錠は胎児の心拍数上昇を招く可能性が示唆されているため避けましょう。また、イブプロフェンやロキソプロフェンなどNSAIDsは妊娠20週以降に胎児腎機能低下や動脈管収縮を引き起こすリスクがあり、産科医の許可なく連続服用するのは禁忌です。

痛みが強く繰り返す場合は、服用記録を残して早めに歯科・産科へ相談し、短期的に抗菌薬を併用して炎症自体を抑え込むか、抜歯時期の再検討を行うことが長期的な安全につながります。

 

夜間・休日に急激な痛みが出たときの相談窓口活用法

夜間帯に顔面の腫れや嚥下痛が急激に悪化した場合、自宅で我慢せず速やかに医療機関へアクセスできる体制づくりが重要です。各自治体が運営する「#8000(小児救急電話相談)」は妊婦本人でも利用可能で、看護師または当番医が症状の緊急度を判定し、受診すべき時間外歯科口腔外科を案内してくれます。

さらに、産科主治医にはあらかじめ“口腔外科紹介状”を作成してもらい、時間外救急センターに提示できるよう準備しておくと診療連携がスムーズです。近隣の歯科大学附属病院や地域基幹病院では「妊婦口腔緊急枠」を設けていることがあるため、連絡先と受付時間をスマートフォンに登録しておきましょう。

救急搬送が必要か迷うケースでは、日本歯科医師会の「休日夜間歯科急患センター一覧」も検索できるため、GPS機能を活用して最短で受診できる施設を選ぶと、母体・胎児のリスクを最小限に抑えられます。

 

抜歯決断!治療当日の流れとママに優しい院内サポート

心拍・血圧モニタリングと左側臥位ポジショニングの徹底

治療当日は受付後に母子手帳や産科の紹介状を確認し、現在の妊娠週数と既往歴を再チェックします。診療チェアへ移動したら、まずパルスオキシメータで SpO₂・脈拍を、オシロメトリック血圧計で血圧を測定し、ベースラインデータを取得します。

妊娠後期では仰臥位低血圧症候群を防ぐため、左側臥位または右臀部下にウェッジクッションを挿入し、子宮が下大静脈を圧迫しない角度を確保するのが鉄則です。局所麻酔はエピネフリン濃度を最小限に抑えた 1/200,000 製剤を用い、投与前に吸引操作を徹底して血管内注入を回避します。

モニタリングは処置終了後も 15 分以上継続し、脈拍・血圧が安定していること、めまいや悪心がないことを確認してからチェアから起こすことで、母体の急変を防止できます。

 

手技時間短縮を叶える超音波骨切削(ピエゾ)活用例

妊婦抜歯では手技時間を短縮し、術野の侵襲を最小限に抑えることが安全性を高める鍵となります。近年使用が広がるピエゾサージェリー(超音波骨切削装置)は、3 万〜3.5 万 Hz の振動で硬組織のみを選択的に切削するため、軟組織を損傷しにくく、出血量を従来のロータリーバーの約 1/2 に抑えられると報告されています。

切削効率が高く、歯根周囲骨を最小限削除するだけで親知らずを摘出できるため、平均手術時間は 20〜30 分に短縮可能です。術中の超音波キャビテーション作用により、細菌数の減少と骨表面のクリーニング効果も期待でき、術後腫脹や痛みの軽減につながります。さらに超音波機器は低騒音で患者ストレスを抑える利点があり、母体の交感神経亢進を最小限にする環境づくりに寄与します。

 

帰宅後の安静指導と授乳への影響を最小限にするポイント

術後はガーゼを 30 分間しっかり咬み圧迫止血を行い、出血が止まったことを確認してから帰宅します。歯肉縫合には吸収性縫合糸を用いると抜糸のための再来院を回避できるため、妊婦の移動負担を軽減できます。

帰宅後 48 時間は就寝時も枕を高くし、患側を上にした側臥位で安静にすることで血流をコントロールし腫脹を抑えます。薬剤はアセトアミノフェンを 6 時間おきに 300〜500 mg、抗菌薬はアモキシシリンを 3 回/日で 3〜5 日間が標準的です。

授乳中の場合、これら薬剤は母乳中移行が少なく、米国小児科学会の安全基準を満たすことが確認されていますが、服薬後 2 時間は授乳を避けると血中濃度ピークを回避でき安心です。

また術後 24 時間はアルコール入りうがい薬を避け、0.05%クロルヘキシジン洗口液を使用すると傷口への刺激を抑えながら感染リスクを下げられます。最後に、38 ℃以上の発熱、持続性の拍動痛、膿の排出を伴う腫れが出た場合は直ちに歯科か産科へ連絡するよう口頭と書面で指導し、緊急時連絡先を渡しておくことが安全管理の要です。

 

術後ケア:腫れ・出血・食事制限を乗り切る5日間スケジュール

48時間内の冷却/以降の温罨法切替タイミング

抜歯直後から48時間は創部の毛細血管が開いているため、氷嚢または冷却ジェルパックをタオルで包み、15分冷却・15分休止のサイクルを繰り返す「間欠冷却」が推奨されます。連続で当て続けるとかえって血流が悪くなり治癒を遅らせるため、必ずクールダウン時間を設けることがポイントです。

48時間を経過すると血管収縮期が終わり、炎症産物の排出と組織修復を進める“温罨法”へ切り替える段階に入ります。蒸しタオル(40 ℃程度)を患側頬部に5〜10分当て、同様に休止を挟みながら1日3セット行うとリンパ還流が促進され、腫脹のピークを1日短縮できると報告されています。妊娠後期は体温上昇でのぼせやすいため、温罨法は必ず室温を保ち、息苦しさを感じたら即座に中止するなど母体の体調を優先してください。

 

鉄分・タンパク質を補う妊婦向け軟食レシピ

術後2〜3日は咀嚼刺激が少ない軟食で栄養バランスを整える必要があります。①「白身魚と豆腐のだし煮」は出汁に含まれるイノシン酸が旨味を補い、タンパク質を無理なく摂取できます。②「ほうれん草と小松菜のポタージュ」は鉄と葉酸を同時に補給でき、牛乳を豆乳に置き換えればカルシウムも確保できます。③「ささみと南瓜のミルクリゾット」は低脂肪高タンパクのささみを細かく裂き、南瓜のビタミンAで粘膜の修復を助けます。

いずれも塩分を控えめにし、温度は37〜40 ℃の“ぬるめ”が創部刺激を最小化します。硬さはスプーンで切れる程度を目安にし、繊維質の強い食材(ゴボウ・レンコンなど)は術後5日目以降に段階的に戻すと安全です。また、食後は0.05%クロルヘキシジン洗口で創部の残渣を洗い流し、機械的清掃はブラシ先端が届かない範囲にとどめると出血リスクを抑えられます。

 

抗生剤・痛み止めを飲み忘れたときの対処と再診基準

抗生剤(例:アモキシシリン500 mg×3回/日)を1回飲み忘れた場合は気付いた時点でただちに服用し、次回服用まで4時間以上空ければ問題ありません。2回連続で抜けた場合は血中濃度が治療域を下回るため、自己判断で倍量を飲まずに歯科へ電話連絡し、指示を仰ぐことが必須です。

鎮痛薬(アセトアミノフェン300〜500 mg)は最短投与間隔6時間を厳守し、間隔を詰めた多量服用は肝機能障害を招く危険があります。飲み忘れて強い痛みが出た場合はまず冷却で対処し、次の定時まで待つのが原則です。

術後3日目以降に〈38 ℃以上の発熱〉〈膿様滲出液の増加〉〈舌下・頸部の広範な腫脹〉のいずれかが生じたら、炎症再燃やドライソケットの疑いがあるため、早朝や夜間でも遠慮せず再診を予約してください。妊娠中は症状進行が速いことを念頭に、“我慢より即連絡”を行動基準にすることが母体と胎児を守る最短ルートです。

 

まとめ&受診促進:迷ったら専門医へ早めの相談を

抜歯の可否は「症状・週数・全身状態」で総合判断

親知らずを抜くか温存するかの最終判断は、「どの程度痛み・腫れがあるか」「現在の妊娠週数は安全域か」「貧血や高血圧など合併症はないか」という三つの観点を同時に評価することが重要です。たとえば、腫脹は軽度でも妊娠後期で血圧が不安定な場合は、短時間の処置であっても仰臥位低血圧症候群が起こるリスクがあります。逆に妊娠中期で全身状態が安定し、炎症が繰り返し再燃している症例では、抜歯で炎症源を除去したほうが母体・胎児双方の安全につながるケースもあります。

歯科医は口腔内だけでなく母体の全身状態や産科医からの所見を総合し、「今抜くべきか」「いつまで待てるか」のタイムラインを提示し、患者自身が納得できる形で意思決定をサポートします。医療面接時には痛みの強さや発熱の有無を正確に伝え、使用中の薬剤や既往症を漏れなく申告することが、最適な治療選択への第一歩です。

 

放置リスクは治療メリットを上回る

親知らず由来の炎症を放置すると、細菌が歯周組織から顎骨や血流に侵入し、蜂窩織炎・敗血症へ進展する危険があります。炎症性サイトカインやプロスタグランジンが上昇すると子宮収縮を誘発し、早産や低体重児出産のリスクが上がることは複数の疫学研究で示唆されています。また、慢性的な疼痛や咀嚼障害は栄養不足を招き、胎児の発育にも影響しかねません。

局所麻酔や抗菌薬の適正使用が確立した現在、妊娠中とはいえ安全な条件下で治療を受けるメリットは、炎症を抱え続けるデメリットを明らかに上回ります。“今は我慢”が最善策ではなく、“適切な時期に適切な処置を受ける”ことこそが母体と胎児を守る近道である――これが最新の周産期口腔医療の共通認識です。

 

不安があれば産科と連携可能な歯科に早期相談

「妊娠中に歯科へ行くのは心配」「赤ちゃんに何かあったらどうしよう」と感じるのは自然なことですが、迷いを先延ばしにすると症状が悪化し、結果的に大がかりな治療を余儀なくされるケースが少なくありません。最初のハードルを下げるコツは、産科医に「妊娠中に対応可能な歯科医院」を紹介してもらうことです。

周産期ネットワークで連携している歯科なら、妊娠週数に応じた投薬・体位管理プロトコルが整備され、緊急時も産科と速やかに情報共有が行えます。受診前に不安や質問を書き出し、診察時に一つずつ解消していくとストレスホルモンの分泌を抑えられることも報告されています。さらに、オンライン初診相談や電話トリアージを活用すれば、来院前に概算の治療方針と安全対策を把握でき、心理的負担を大幅に軽減できます。

痛みや腫れを感じたら「自分と赤ちゃんを守るための早期行動」と捉え、産科・歯科の連携体制を積極的に利用することが安心・安全なマタニティライフへの近道となります。

 

 

 

監修:愛育クリニック麻布歯科ユニット
所在地〒:東京都港区南麻布5丁目6-8 総合母子保健センター愛育クリニック
電話番号☎:03-3473-8243

*監修者
愛育クリニック麻布歯科ユニット
ドクター 安達 英一
*出身大学
日本大学歯学部
*経歴
日本大学歯学部付属歯科病院 勤務
東京都式根島歯科診療所 勤務
長崎県澤本歯科医院 勤務
医療法人社団東杏会丸ビル歯科 勤務
愛育クリニック麻布歯科ユニット 開設
愛育幼稚園 校医
愛育養護学校 校医
・青山一丁目麻布歯科 開設
区立西麻布保育園 園医
*所属
日本歯科医師会
東京都歯科医師会
東京都港区麻布赤坂歯科医師会
日本歯周病学会
日本小児歯科学会
日本歯科審美学会
日本口腔インプラント学会

カテゴリー:コラム  投稿日:2025年5月23日