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港区麻布(南麻布)の歯医者・歯科|愛育クリニック麻布歯科ユニット

※初診の方は総合受付には寄らず、直接歯科受付までお越し下さい。また、問診票の記入のため予約の10分前にご来院頂きますよう宜しくお願いします。

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〒106-8580 東京都港区南麻布5-6-8
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妊娠中の歯科検診「異常ないから平気」はNG!赤ちゃんへの影響と必要性

 

「痛くもないのに、なぜ?」その素朴な疑問、お答えします

・産婦人科医が勧める理由

産婦人科での定期健診。お腹の赤ちゃんの成長を実感できる、喜びに満ちた時間ですよね。その大切な診察の際に、先生から「一度、歯医者さんにも行っておいてくださいね」と、ふと声をかけられた経験はありませんか?その時、「え、特に歯は痛くも痒くもないのに、どうしてだろう?」と、少し不思議に思われた方もいらっしゃるかもしれません。そのお気持ち、とてもよく分かります。産婦人科の先生は、お腹の赤ちゃんの専門家。その先生がなぜ、専門外であるはずの「お口」のことを気にかけるのでしょうか。それは、近年の研究で、お母さんのお口の健康状態が、妊娠の経過やお腹の赤ちゃんの健やかな発育に、決して無視できないほど深く関わっていることが明らかになってきたからです。産婦人科医は、赤ちゃんの専門家であると同時に、お母さんの「全身の健康」を守る専門家です。その先生が歯科検診を勧めるのは、あなたと、そしてお腹の中で育まれている新しい命を、あらゆるリスクから守りたいという、愛情に満ちたメッセージに他ならないのです。

 

・母子手帳に歯の記録がある訳

お手元にある母子健康手帳を、一度開いてみてください。体重や血圧、尿検査の結果などを記録するページと並んで、「妊娠中と産後の歯の状態」という記録欄が設けられていることにお気づきになるでしょう。なぜ、国が発行するこの大切な手帳に、わざわざ「歯」の項目があるのでしょうか。それは、お母さんのお口の健康が、妊娠期間中のご自身の体調はもちろん、生まれてくる赤ちゃんの将来の健康にまで影響を及ぼす、極めて重要な「健康指標」であると、国レベルで認識されている証拠なのです。この欄は、単なる記録のためのスペースではありません。妊娠という特別な時期に、お口の中で起こりやすい変化を早期に発見し、適切に対処することで、母子ともに健やかな毎日を送るための「お守り」のような存在です。このページが空白のままになっている方も、何も心配はいりません。この記事を読み終える頃には、その一歩を踏み出す意味を、きっとご理解いただけるはずです。

 

・症状がなくても行くべき?

「でも、しみることもないし、痛みも全くない。本当に歯医者に行く必要があるの?」――これは、私たちが妊婦さんから最もよく伺うご質問です。結論から申し上げますと、「はい、症状がない今だからこそ、行くべき」なのです。実は、虫歯や歯周病といったお口のトラブルは、痛みや腫れといった自覚症状が出た時には、すでにかなり進行してしまっているケースがほとんどです。いわば、お口のトラブルは“サイレントキラー(静かな殺し屋)”。特に、女性ホルモンが劇的に変化する妊娠期間中は、普段なら何でもないような小さなきっかけから、お口のトラブルが静かに、しかし急速に進行しやすい、非常にデリケートな時期です。症状がない今は、いわば「お口の平和」が保たれている状態。この平和な時期にこそ専門家によるチェックを受けることで、トラブルの芽を未然に摘み取り、治療が必要になったとしても、心身への負担が最も少ない、ごく簡単な処置で済ませることができるのです。問題が起きてから慌てるのではなく、問題が起きないように先手を打つ。それこそが、妊婦歯科検診の最大の目的なのです。

 

妊娠すると、お口の中はこう変わる!ホルモンの影響とは

・歯ぐきからの出血や腫れ

妊娠してから、歯磨きの時に歯ぐきから血が出やすくなった、あるいは歯ぐきが少し腫れぼったく、赤みを帯びているように感じることはありませんか?それは、決して気のせいではありません。妊娠中は、「エストロゲン」や「プロゲステロン」といった女性ホルモンの分泌量が劇的に増加します。実は、歯周病を引き起こす細菌の中には、この女性ホルモンを“栄養源”として増殖するタイプがいるのです。つまり、妊娠中のお口の中は、普段よりも歯周病菌が活発になりやすい環境に傾いてしまいます。さらに、これらのホルモンは血管を拡張させる作用もあるため、歯ぐきが外部からのわずかな刺激にも敏感に反応し、炎症を起こしやすくなります。これが「妊娠性歯肉炎」と呼ばれる、多くの妊婦さんが経験する症状の正体です。これは妊娠に伴う生理的な変化であり、過度に心配する必要はありませんが、放置してはいけません。この炎症を抑え、悪化させないためには、プロフェッショナルによるクリーニングと、ご自身の状態に合った正しいセルフケアが何よりも重要になるのです。

 

・つわりと虫歯の意外な関係

妊娠初期の多くの方を悩ませる「つわり」。気分の悪さや倦怠感はもちろんですが、実はこのつわりが、虫歯のリスクを著しく高める原因になることをご存知でしょうか。まず、「吐きづわり」によって嘔吐してしまうと、強酸性である胃液がお口の中に逆流し、歯の表面を覆う硬いエナメル質を溶かしてしまいます(酸蝕症)。歯の鎧が溶かされた状態は、虫歯菌にとって格好の攻撃チャンスとなります。また、「食べづわり」で、空腹を紛らわすためにアメや甘い飲み物などを少量ずつ、ダラダラと口にする時間が増えると、お口の中が常に酸性の状態に保たれ、虫歯が非常にできやすい環境になります。さらに、つわりによる体調不良で、歯ブラシを口に入れること自体が苦痛になり、歯磨きがおろそかになりがちです。このように、つわりは「歯を溶かす」「糖分にさらす」「清掃が不十分になる」という、虫歯の三大リスクを同時に引き起こす可能性があるのです。この困難な時期を乗り切るための、歯磨きの工夫やフッ素の活用法など、専門家としてのアドバイスをご提供できます。

 

・唾液の変化でリスクが増加

お口の健康を守る“天然の防御システム”。それが「唾液」です。唾液には、食べかすや細菌を洗い流す「自浄作用」、食後の酸性に傾いたお口の中を中性に戻す「緩衝作用」、そして、酸によってわずかに溶け出した歯の成分を修復する「再石灰化作用」といった、素晴らしい働きがあります。しかし、妊娠中はホルモンバランスの変化や体の水分量の変動により、この唾液の分泌量が減少し、性質もネバネバと粘稠性が高くなる傾向があります。唾液が減ってネバつくと、自浄作用や緩衝作用が十分に働かなくなり、食べかすや歯垢(プラーク)が歯に付着しやすくなります。その結果、虫歯菌や歯周病菌が繁殖しやすい環境が整ってしまうのです。妊娠してから、なんだか口の中が乾く、あるいはスッキリしないと感じている方は、この唾液の変化が原因かもしれません。お口の乾燥を防ぐためのアドバイスや、唾液の働きを補うためのケア方法を知ることも、妊婦歯科検診の大きなメリットの一つです。

 

歯周病と「早産・低体重児出産」の怖い関係

・歯周病菌が全身を巡る?

「歯周病」と聞くと、多くの人が「歯ぐきが腫れたり、血が出たりする、お口の中だけの病気」とイメージされるかもしれません。しかし、その認識は今日から改めてください。歯周病は、単なるお口の病気ではなく、その影響が全身に及ぶ可能性のある、れっきとした「感染症」です。
歯周病が進行すると、歯と歯ぐきの間に「歯周ポケット」と呼ばれる深い溝ができます。このポケットの内側は、炎症によって血管がむき出しの状態になっており、そこは細菌にとって格好の“侵入口”となります。
歯周ポケットで増殖した歯周病菌や、それらが作り出す毒性物質は、この傷口からいとも簡単に血管内に侵入し、血液の流れに乗って、心臓や脳、そしてお腹の赤ちゃんがいる子宮にまで到達してしまうのです。
お口の中の細菌が、血流に乗って全身を旅する――。にわかには信じがたいかもしれませんが、これが歯周病が「全身疾患」と関連付けられる、医学的なメカニズムの基本です。

 

・早産・低体重児出産との関連性

では、血流に乗って子宮周辺にまでたどり着いた歯周病菌は、一体どのような影響を及ぼすのでしょうか。
近年の産婦人科学会や歯周病学会の研究により、重度の歯周病にかかっている妊婦さんは、そうでない妊婦さんと比べて、「早産(妊娠37週未満での出産)」や「低体重児(出生体重2,500g未満)出産」のリスクが数倍にも高まるという、衝撃的なデータが報告されています。
そのメカニズムの一つとして考えられているのが、炎症との関係です。歯周病菌が子宮周辺で炎症を引き起こすと、体はそれを異物と認識し、排除しようとします。その際に放出される「プロスタグランジン」という物質は、実は子宮を収縮させ、陣痛を促す作用を持つ物質でもあります。
つまり、歯周病による炎症が、本来まだ必要のない時期に子宮の収縮を誘発し、早産の引き金を引いてしまう可能性があるのです。
タバコやアルコール、高齢出産といった既知のリスク因子よりも、歯周病の方が早産・低体重児出産のリスクが高いという報告もあり、これは決して無視できない、重大な問題です。

 

・産婦人科医が懸念する医学的根拠

産婦人科の先生が、妊婦さんに歯科検診を強く勧める背景には、まさにこの「歯周病と早産・低体重児出産のリスク」に対する深い懸念があります。
産婦人科医は、お母さんと赤ちゃんの健康を守る最前線に立つ専門家として、この医学的な関連性を重く受け止めています。
お腹の赤ちゃんが、少しでも長くお母さんのお腹の中で健やかに育ち、適切な時期に、十分な体重で生まれてくること。
それが、産婦人科医と、そして何よりもお母さんご自身の切なる願いのはずです。
その願いを脅かす可能性のあるリスクは、一つでも多く取り除いておきたい。
そのリスクの一つが、お母さんのお口の中に潜んでいるかもしれないのです。
妊婦歯科検診は、この見過ごされがちなリスクを早期に発見し、コントロールするための、非常に効果的で、かつ安全な手段です。
これは決してあなたを怖がらせるための話ではありません。
あなたと、そしてお腹の赤ちゃんを守るための、科学的根拠に基づいた、愛ある警告なのです。

 

「何をされるの?」妊婦歯科検診の具体的な流れ

・まずは安心のための問診

歯科医院のドアを開け、受付を済ませたら、まず初めに行うのが「問診」です。いきなり診療台に座って、お口の中に器具を入れられる、ということは決してありませんのでご安心ください。
私たちは、あなたのお口を診る前に、まずあなたご自身と、お腹の赤ちゃんの健康状態を最優先に考えます。
そのために、専用の問診票にご記入いただいたり、スタッフが直接お話を伺ったりしながら、いくつかの大切なことを確認させていただきます。
例えば、「現在の妊娠週数」「つわりの状態や、現在の体調で特に気になること」「かかりつけの産婦人科名と担当医名」「妊娠経過で、医師から何か特別な注意を受けているか」「過去の病歴や、現在服用中のお薬の有無」などです。
これらの情報は、安全に検診や治療を進める上で不可欠な、私たちにとっての“カルテ”となります。
この問診の時間は、あなたが今感じているお口に関する不安や疑問を、どんな些細なことでも気兼ねなくお話しいただける大切なコミュニケーションの時間です。
ここでお話をしっかり伺うことが、あなただけのオーダーメイドのケアプランを立てる第一歩となります。

・痛くない、優しいお口のチェック

問診であなたの健康状態をしっかりと把握した上で、いよいよお口の中を拝見します。
診療台の椅子を倒す際も、お腹に負担がかからないよう、角度を細かく調整しながらゆっくりと行います。
そして、歯科医師がライトを当てて、お口の中を優しくチェックしていきます。
この時、私たちが主に見ているのは、「虫歯の有無」「歯周病の進行度」「歯ぐきの腫れや出血の状態」「歯石や歯垢の付着具合」「過去の治療箇所の状態」などです。
小さな鏡と、先端が丸められた「探針(たんしん)」という器具を使いますが、決して歯を強く突いたり、痛みを与えたりするようなことはありません。
歯周病の検査では、「プローブ」という目盛りのついた細い器具で、歯と歯ぐきの間の溝(歯周ポケット)の深さをそっと測ります。
これもチクチクする程度の感覚で、強い痛みを感じることはほとんどありません。
私たちは、妊婦さんが心身ともに非常にデリケートな状態にあることを深く理解しています。
検診の最中に少しでも気分が悪くなったり、体勢が辛くなったりした場合は、いつでも遠慮なくお声がけください。
すぐに中断し、休憩をとっていただきます。

・今後のアドバイスと結果説明

お口の中のチェックが終わりましたら、椅子を起こして楽な姿勢になっていただき、検診結果について丁寧にご説明します。
撮影したお口の中の写真や、検査結果の数値をモニターに映し出しながら、「現在、お口の中はこのような状態です」「この部分に少し歯石が溜まっているので、クリーニングをおすすめします」「虫歯のリスクが高いので、このような歯磨きの工夫をしてみましょう」といったように、専門用語を避け、分かりやすい言葉で具体的にお伝えします。
もし、治療が必要な虫歯が見つかった場合でも、その場で無理に治療を始めることはありません。
妊娠周期やあなたの体調を考慮し、「安定期に入ってから治療しましょう」「これは産後でも大丈夫でしょう」といったように、最適な治療計画をご提案します。
さらに、つわり中の歯磨きのコツや、お腹の赤ちゃんのために今からできる食事の注意点、おすすめの歯ブラシや歯磨き粉など、プロの視点からあなたに合ったセルフケアの方法を具体的にアドバイスさせていただきます。
検診は、ただ問題を見つけるだけでなく、あなたが安心してマタニティライフを送るための知識とスキルを身につける、大切な学びの場でもあるのです。

 

 

レントゲン・麻酔・薬は大丈夫?妊婦さんのための安全対策

・レントゲンは本当に安全?

「歯医者のレントゲンが、お腹の赤ちゃんに影響するのではないか」――これは、妊婦さんが抱く最も大きな不安の一つであり、私たちが最も慎重に考えている点でもあります。
まず大原則として、妊娠中の歯科検診では、診断にどうしても必要な場合を除き、レントゲン撮影は行いません。
しかし、痛みの原因が歯の根の深い部分にあるなど、正確な診断と安全な治療のために撮影が不可欠と判断されるケースもあります。その際、私たちは安全性を確保するために、二重三重の対策を講じます。

第一に、撮影する場所はお口であり、胎児がいる腹部からは大きく離れています。第二に、撮影時には必ず、鉛が含まれた「防護用エプロン」をお腹の上に着用していただき、X線を物理的に完全にシャットアウトします。第三に、当院が使用している「デジタルレントゲン」は、従来のフィルム式に比べて被ばく量が1/4~1/10と極めて少なく、その放射線量は、私たちが日常生活で自然界から浴びる自然放射線量や、東京-ニューヨーク間を飛行機で往復する際に浴びる宇宙線量よりもはるかに微量です。

これらの事実から、防護用エプロンを着用した上での歯科用デジタルレントゲン撮影が、お腹の赤ちゃんに影響を及ぼす可能性は、科学的に「ない」と言い切って良いレベルです。
それでもご不安な場合は、決して無理強いはいたしません。ご納得いただけるまで、何度でも丁寧にご説明いたします。

・歯科用の麻酔は使っても平気?

もし虫歯の治療が必要になった場合、「麻酔の注射が、赤ちゃんに影響するのでは?」と心配されるお気持ちも、痛いほどよく分かります。
しかし、ご安心ください。歯科治療で一般的に使用される「局所麻酔」は、注射した部分の周囲だけに作用するものであり、全身に作用する全身麻酔とは全く異なります。
使用する麻酔薬の量はごく微量で、分解も早いため、血流に乗って胎盤を通過し、お腹の赤ちゃんに影響を及ぼすことは、通常の使用量ではまず考えられません。

むしろ、私たちが懸念するのは、麻酔を使わずに痛みを我慢しながら治療を行うことによる「ストレス」の方です。
強い痛みは、お母さんの血圧を上昇させたり、過呼吸を誘発したりと、母体にとって大きなストレスとなり、かえってお腹の赤ちゃんにとって良くない影響を与えかねません。
痛みをしっかりコントロールし、リラックスした状態で安全に治療を終えること。
それこそが、母子ともに最も負担の少ない選択なのです。
当院では、血管収縮薬の含有量が少ないなど、より妊婦さんに配慮した麻酔薬を選択して使用しています。
安全な麻酔を用いて、無痛で快適な治療を提供することをお約束します。

・薬が必要になった場合の対応

治療後に痛みが出たり、感染を防ぐために、痛み止めや抗生物質(化膿止め)が必要になる場合があります。
「薬を飲むなんて、赤ちゃんに絶対に悪い」――そう思われるのは当然です。
私たちは、妊娠期間中の投薬には最大限の注意を払っており、安易に薬を処方することは絶対にありません。

大前提として、まずは薬を飲まなくても済むように、できるだけ痛みの少ない、丁寧な治療を心がけます。
それでも、どうしてもお薬が必要だと判断した場合には、産婦人科の領域で長年の使用実績があり、妊娠中でも安全性が高いと確立されている種類の薬を、必要最小限の量・日数で処方します。

例えば、痛み止めであれば「アセトアミノフェン」、抗生物質であれば一部の「ペニシリン系」や「セフェム系」などがそれに当たります。
処方する際には、必ずその薬がなぜ必要なのか、どのような種類の薬なのかをご説明します。
また、必要に応じて、かかりつけの産婦人科の先生に連絡を取り、情報共有や相談を行った上で処方を決定する「医科歯科連携」も徹底しています。

あなたと赤ちゃんにとっての安全を何よりも最優先し、あらゆる角度から検討した上で最善の選択をしますので、どうぞ私たち専門家にお任せください。

 

 

「マイナス1歳」から始める、わが子のための虫歯予防

・虫歯は赤ちゃんにうつる?

生まれたばかりの赤ちゃんのお口の中。そこは、驚くほど清潔で、虫歯の原因となる「ミュータンス菌」は一匹も存在しない、いわば“無菌室”のような状態です。
では、なぜ多くの子どもたちが虫歯になってしまうのでしょうか。その答えは、とてもシンプル。虫歯菌は、空気感染や遺伝でうつるのではなく、唾液を介して、最も身近な大人から「感染」するのです。

そして、その最大の感染源となってしまうのが、残念ながら、赤ちゃんを一番愛しているお母さん(あるいはご家族)であることがほとんどです。
例えば、可愛いわが子のために、熱い食べ物をフーフーと冷ましてから与えたり、同じスプーンやコップを使ったり、愛情表現のキスをしたり…。
こうしたごく自然な親子のスキンシップを通じて、お母さんのお口の中にいる虫歯菌が、赤ちゃんの無防備なお口へと引っ越してしまうのです。

もちろん、こうした愛情あふれる行為を全てやめる必要はありません。大切なのは、感染源となるお母さんご自身のお口の中から、虫歯菌をできるだけ減らしておくこと。
それが、感染のリスクを最小限に抑えるための、最も効果的で、最も愛情深いアプローチなのです。

・最高のプレゼントは「ママの健康」

これから生まれてくる赤ちゃんのために、あなたは今、たくさんの準備をしていることでしょう。
肌触りの良いベビー服を選んだり、安全なベビーベッドを用意したり、栄養バランスの取れた食事を心がけたり。
そのどれもが、赤ちゃんへの深い愛情にあふれた、素晴らしい準備です。

そして、その準備のリストに、ぜひ加えていただきたいのが「お母さん自身の、健康なお口の環境」です。
お母さんのお口の中の虫歯菌が少なければ少ないほど、赤ちゃんが虫歯菌に感染する時期を遅らせることができ、たとえ感染したとしても、その菌の量を少なく抑えることができます。

実は、3歳頃までに虫歯菌の感染がなければ、その子は将来的に虫歯になりにくい、という研究データもあるのです。
つまり、あなたが妊娠中にご自身のお口のケアをしっかりと行い、虫歯や歯周病をきちんと管理しておくことは、高価な知育玩具やブランドのベビー服以上に価値のある、わが子の“一生モノの健康”を贈ることに繋がるのです。
これは、お金では決して買うことのできない、お母さんから赤ちゃんへの、最高のプレゼントと言えるでしょう。

・今から始める「マイナス1歳」予防

この、赤ちゃんがお腹の中にいる時期から始める虫歯予防の考え方を、私たちは「マイナス1歳からの虫歯予防」と呼んでいます。
赤ちゃんが生まれてから歯磨きを始める「0歳からのケア」ももちろん重要ですが、それよりもさらに一歩手前の、妊娠期間中からスタートすることで、より効果的に、そしてより根本的に、わが子を虫歯から守ることが可能になります。

妊婦歯科検診は、まさにこの「マイナス1歳からの虫歯予防」の第一歩です。
検診であなたのお口の状態を正確に把握し、プロフェッショナルによるクリーニングで虫歯菌や歯周病菌のすみかである歯石や歯垢(プラーク)を徹底的に除去する。
そして、ご自身に合った正しいブラッシング方法を身につける。

たったこれだけのことですが、その効果は絶大です。
お母さんご自身の健康を守ることが、そのままダイレクトに、お腹の赤ちゃんの未来の健康へと繋がっていく。
この素晴らしい連鎖を、ぜひ知っていただきたいと思います。
あなたのその一歩が、お子様の輝く未来を創る、大きな一歩になるのです。

 

歯科検診はいつ行くべき?妊娠周期別ガイド

 

・つわりが辛い妊娠初期

妊娠が分かり、喜びに満ちあふれる「妊娠初期(~4ヶ月頃)」。しかし、同時に多くの方が「つわり」による体調の変化に悩まされる時期でもあります。
この時期は、心身ともに非常にデリケートで、お母さんとお腹の赤ちゃんにとって最も大切な器官形成期にあたります。
そのため、歯科治療においても、原則として緊急性のない処置は行いません。

検診自体は可能ですが、つわりで歯ブラシを口に入れるのも辛い、あるいは診療台で横になること自体が苦しい、という方も多いでしょう。
もしこの時期に、どうしても我慢できないほどの強い痛みが出た場合は、もちろん応急処置を行います。
痛みの原因を取り除くための最小限の処置に留め、本格的な治療は安定期に入ってから行うのが基本です。

体調が良い日を選んで、まずはお口の状態をチェックし、相談するだけでも構いません。
しかし、決して無理はせず、ご自身の体調を最優先に考えてください。
この時期は、まずはお腹の赤ちゃんとご自身の体を休ませてあげることが何よりも大切です。

・ベストは「安定期」です

妊婦歯科検診や、必要な治療を受けるのに最も適した時期。それは、一般的に「安定期」と呼ばれる「妊娠中期(5ヶ月~7ヶ月頃)」です。
この時期になると、多くの方でつわりの症状が落ち着き、体調が安定してきます。
また、胎盤が完成し、流産のリスクも低くなるため、比較的安心して歯科治療を受けることができます。

お腹の大きさもまだそれほどではなく、診療台で長時間、仰向けの姿勢でいることへの負担も比較的少ない時期です。
そのため、産婦人科の先生からも、この安定期に歯科検診を受けるよう勧められることが多いのです。

もし治療が必要な虫歯や歯周病が見つかった場合でも、この安定期であれば、ほとんどの通常の歯科治療(麻酔を使った治療や、詰め物・被せ物の治療など)を安全に行うことが可能です。
出産後は、育児に追われて自分のための時間を確保するのが本当に難しくなります。
心と体に余裕のあるこのベストタイミングを逃さず、お口の懸念材料をクリアにしておくことが、安心して出産に臨むための、そして産後の穏やかな毎日のための、賢い選択と言えるでしょう。

・お腹が大きい妊娠後期

「妊娠後期(8ヶ月~)」に入ると、出産への期待感が高まる一方で、お腹が大きくせり出し、体の重心も変化するため、様々なマイナートラブルが起こりやすい時期です。

この時期に歯科治療を受ける上で最も懸念されるのが「仰臥位低血圧症候群(ぎょうがいていけつあつしょうこうぐん)」です。
これは、大きくなった子宮が、仰向けになることで背中側にある大きな血管(下大静脈)を圧迫し、心臓へ戻る血液が減少してしまうことで、血圧低下やめまい、吐き気などを引き起こす状態です。

そのため、この時期の歯科治療では、長時間仰向けの姿勢を続けることは避けなければなりません。
治療が必要な場合は、左側を少し下にしたり、こまめに体勢を変えたり、休憩を挟んだりしながら、細心の注意を払って行います。

また、出産が近づいているため、歯科治療によるストレスが早産を引き起こすリスクもゼロではありません。
したがって、この時期も妊娠初期と同様に、原則として応急処置に留めるのが一般的です。
安定期に検診を受けそびれてしまった方も、まずはご相談ください。
安全を最優先した上で、今できる最善のケアをご提案します。

 

 

「マタニティ歯科」を選ぶべき?安心できる歯医者さんの見つけ方

・妊婦さんへの理解と配慮

妊婦さんのための歯科医院選びで、最も根幹となる大切なこと。
それは、その医院のドクターやスタッフが、「妊娠中の女性の身体と心に、どれだけ深い理解と知識を持っているか」という点です。
妊娠期間中は、女性ホルモンの劇的な変化だけでなく、つわりによる体調不良、味覚の変化、精神的な浮き沈みなど、ご自身でもコントロールが難しい、様々な変化に直面します。

信頼できる歯科医院は、こうした妊婦さん特有の状況を「当たり前のこと」として受け止め、共感し、その上で専門的なサポートを提供してくれます。
例えば、問診の際に時間をかけて丁寧に話を聞いてくれたり、「つわり、大変ですね。歯磨きは無理のない範囲で大丈夫ですよ」と、気持ちに寄り添う言葉をかけてくれたり。
そうした何気ないコミュニケーションの中にこそ、医院の姿勢は表れるものです。

「マタニティ歯科」を標榜している医院は、こうした知識や経験が豊富である一つの目安になりますが、大切なのは看板よりも、そこで働く「人」です。
あなたの不安な気持ちを優しく受け止め、安心してすべてを任せられる。
そんな信頼関係を築ける医院こそが、あなたにとっての最高のパートナーとなるでしょう。

・産婦人科との連携体制

妊婦さんの歯科治療は、歯科医師だけで完結するものではありません。
お母さんとお腹の赤ちゃんの安全を万全の体制で守るためには、かかりつけの「産婦人科医」との連携が極めて重要になります。

例えば、治療方針について判断に迷うケースや、お薬の処方が必要になった場合など、当院では必要に応じて、患者様の同意を得た上で、かかりつけの産婦人科医に電話や紹介状で連絡を取り、現在の妊娠経過や注意点について情報を共有・相談することがあります。
これを「医科歯科連携」と呼びます。

この連携体制がスムーズに機能することで、私たちはより確信を持って、あなたにとって最も安全で最適な治療を選択することができます。
また、産婦人科医側も、患者さんのお口の状態を把握できるため、より総合的な健康管理が可能になります。

医院を選ぶ際には、こうした他科との連携を大切にしているかどうか、ホームページで言及されているか、あるいは直接問い合わせてみるのも良いでしょう。
一人の患者さんを、複数の専門家がチームとして見守る。
その体制が整っていることは、安心できる医院選びの大きなポイントです。

・安心して通える院内環境

専門的な知識や技術はもちろん重要ですが、妊婦さんが実際に通う上で、物理的な「院内環境」への配慮も、快適性と安全性を左右する見過ごせない要素です。

まず、診療台のチェア。
長時間、仰向けの姿勢が辛くなる妊娠後期のために、クッションや膝掛けが用意されていたり、椅子の角度を細かく調整してくれたりする配慮は、とてもありがたいものです。

また、歯科医院特有の薬品の匂いは、つわりの時期には特に敏感に感じてしまうもの。
アロマを焚いたり、空気清浄機を設置したりして、院内の匂いにまで気を配っている医院は、妊婦さんへの理解が深いと言えるでしょう。

さらに、上の子を連れて来院されるお母さんのためには、「キッズスペース」が完備されていると、安心してご自身の治療に集中できます。
ベビーカーのまま院内に入れるよう、バリアフリー設計になっているかどうかも重要なチェックポイントです。

こうした細やかな心配りの一つひとつが、医院の「おもてなしの心」であり、あなたがストレスなく、リラックスして通い続けられるかどうかを決める、大切な基準となるのです。

 

 

「産後でもいいや」が難しい理由。だからこそ「今」なのです

・産後は自分の時間がない現実

「今はつわりで大変だから、出産して落ち着いたら歯医者に行こうかな…」――そう考えるお気持ち、とてもよく分かります。
しかし、先輩ママたちの多くが口を揃えて言うことがあります。
それは、「産後は、妊娠中が天国に思えるほど、自分の時間がない」という、リアルな現実です。

新生児のお世話は、3時間ごとの授乳やおむつ替え、寝かしつけなど、24時間体制で待ったなし。
自分の食事や睡眠時間さえ、ままならない日々が続きます。
そんな中で、自分のために歯医者を予約し、時間を作って外出するというのは、想像を絶するほどハードルが高いタスクになります。

誰かに赤ちゃんを預けなければならず、その調整も一苦労。
ようやく歯科医院にたどり着いても、赤ちゃんのことが気になって治療に集中できないかもしれません。
妊娠中の今、お腹の赤ちゃんと一心同体の「一人の時間」は、実は産後には決して訪れない、非常に貴重で自由な時間なのです。

この“ゴールデンタイム”を、ご自身の健康のために有効に使うこと。
それは、未来の自分を助けるための、最も賢明な投資と言えるでしょう。

・授乳中の治療で気をつけること

もし、産後に歯のトラブルが起きてしまった場合、治療には妊娠中とはまた違った配慮が必要になります。
それが「授乳」への影響です。

例えば、治療後に痛み止めや抗生物質が必要になった場合、その薬の成分が母乳に移行し、赤ちゃんに影響を与える可能性を考慮しなければなりません。
もちろん、授乳中でも比較的安全に使える薬はありますが、選択肢は妊娠中よりもさらに限られます。
歯科医師は、薬の種類や服用するタイミング(授乳直後に服用するなど)に細心の注意を払う必要があります。

また、麻酔を使った治療自体は授乳に影響ありませんが、「治療によるお母さんのストレスが、母乳の出に影響するのでは…」と心配される方も少なくありません。
歯の痛みと、赤ちゃんへの心配という、二重のストレスを抱えながら治療を受けるのは、心身ともに大きな負担となります。

妊娠中の安定期であれば、こうした授乳に関する心配をすることなく、より幅広い選択肢の中から、安心して最適な治療を受けることができるのです。

・「今」検診を受けるべき本当の理由

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
産後に歯科医院へ行くことが、いかに大変かをご理解いただけたかと思います。
だからこそ、私たちは強くお伝えしたいのです。「今」検診を受けることの圧倒的なメリットを。

「今」であれば、ご自身の体調だけを考えて、来院のスケジュールを組むことができます。
「今」であれば、産後の時間を奪う原因となるお口のトラブルの芽を、先回りして摘み取ることができます。
「今」であれば、もし治療が必要になっても、授乳への影響などを心配することなく、安心して治療に専念できます。

そして何より、「今」あなたがお口の健康を手に入れることは、生まれてくるわが子への最高のプレゼント、「マイナス1歳からの虫歯予防」のスタートになるのです。

出産という大仕事に向けて、心と体の準備を万全に整えること。
その準備の一つとして、お口の不安を取り除いておくことは、あなたが思っている以上に、心に大きな平穏と自信をもたらしてくれます。
その穏やかな気持ちこそが、安産への一番のお守りになるのかもしれません。

 

 

あと一歩が踏み出せないあなたへ。最後の疑問にお答えします

・Q. 費用は?助成は使える?

A. 多くの自治体で、妊婦歯科健診(検診)の費用を助成する制度が設けられています。
まずはお住まいの市区町村のホームページをご確認いただくか、母子健康手帳と一緒にもらった書類の中に、妊婦歯科健康診査の「受診券」や「補助券」が入っていないかチェックしてみてください。
これらの券を利用することで、検診を無料または一部自己負担で受けることができます。

ただし、この助成はあくまで「検診」に対するものであり、もし虫歯治療や歯石除去などの「治療」が必要になった場合は、通常の保険診療扱いとなり、別途費用(3割負担)が発生します。
当院では、検診の結果、もし治療が必要と判断された場合でも、必ず事前に内容と費用の概算をご説明し、ご納得いただいてから治療に進みますのでご安心ください。
まずは受診券を使って、お口の状態をチェックすることから始めましょう。

・Q. 持ち物は?母子手帳は必要?

A. はい、ご来院の際は「保険証」と「母子健康手帳」を必ずお持ちください。
「保険証」は、もし治療が必要になった際に保険診療を適用するために必要です。
「母子健康手帳」は、私たち歯科医師があなたの妊娠週数や経過を正確に把握し、安全な診療を行うための非常に重要な情報源となります。

また、自治体の助成を利用する場合は、「妊婦歯科健康診査受診券(補助券)」も忘れずにお持ちください。
その他、もし現在服用中のお薬があれば、「お薬手帳」もご持参いただけると大変助かります。
服装は、お腹を締め付けない、ゆったりとしたリラックスできる服装でお越しいただくのがおすすめです。
特に準備に手間のかかるものはありませんので、どうぞお気軽な気持ちでお越しください。

・Q. 虫歯が見つかったらどうなる?

A. すぐに治療が始まるとは限りません。まず、あなたにとっての最善策を一緒に考えます。
検診で虫歯が見つかったとしても、その場で「では、今日治療しましょう」と一方的に進めることは絶対にありませんので、ご安心ください。

私たちはまず、その虫歯の大きさや深さ、そして何よりもあなたの妊娠周期と体調を総合的に考慮します。
例えば、ごく初期の虫歯であれば、急いで削らずにフッ素塗布などで進行を抑制し、産後まで経過を見ることもあります。
治療が必要な場合でも、最も安定している「妊娠中期」に治療計画を立てるのが一般的です。

痛みがなく緊急性がない場合は、あなたの体調が良い日を改めて予約していただく形になります。
私たちは、治療の必要性、具体的な方法、最適な時期について丁寧にご説明し、あなたが心から納得できる選択肢を一緒に見つけていきます。
まずは「知る」ことが第一歩です。安心して、あなたのお口の状態を私たちに見せてください。

 

 

 

監修:愛育クリニック麻布歯科ユニット
所在地〒:東京都港区南麻布5丁目6-8 総合母子保健センター愛育クリニック
電話番号☎:03-3473-8243

*監修者
愛育クリニック麻布歯科ユニット
ドクター 安達 英一
*出身大学
日本大学歯学部
*経歴
日本大学歯学部付属歯科病院 勤務
東京都式根島歯科診療所 勤務
長崎県澤本歯科医院 勤務
医療法人社団東杏会丸ビル歯科 勤務
愛育クリニック麻布歯科ユニット 開設
愛育幼稚園 校医
愛育養護学校 校医
・青山一丁目麻布歯科 開設
区立西麻布保育園 園医
*所属
日本歯科医師会
東京都歯科医師会
東京都港区麻布赤坂歯科医師会
日本歯周病学会
日本小児歯科学会
日本歯科審美学会
日本口腔インプラント学会

カテゴリー:コラム  投稿日:2025年6月27日