妊娠後期の歯の痛みが止まらない?痛み止め・応急処置・受診のタイミング
妊娠後期に増える「歯の痛み」への不安
なぜ今この時期に痛みが強くなるのか
妊娠後期は、お腹が大きくなることで姿勢が変わり、眠り方や生活リズムも大きく変化します。口の中では、ホルモンバランスの影響で歯ぐきに炎症が起こりやすくなり、少しの刺激でも歯痛を感じやすくなる方がいます。つわりが落ち着いたあとも、胃酸の逆流や間食の増加により、虫歯や知覚過敏のリスクは続きます。
また、「妊娠中は歯医者に行かない方がよい」と聞いたことがあり、受診を控えているうちに症状が進行してしまうケースも少なくありません。妊娠後期の歯痛は、妊娠そのものだけが原因とは限らず、もともとの虫歯・歯周病が、この時期の環境変化で一気に表面化していることもあります。まずは「自分だけがおかしいわけではない」と知ることが、不安を和らげる第一歩になります。
我慢し続けることで起こり得るリスク
妊娠後期の歯痛を「出産までの辛抱」と考えて我慢し続けると、痛みの原因によっては症状が進む可能性があり、治療の選択肢が限られる場合があります。たとえば深い虫歯を放置すると、神経まで炎症が広がり、ズキズキする強い痛みや、夜眠れないほどの歯痛につながることがあります。炎症が根の先や骨に及ぶと、腫れや発熱を伴い、全身状態にも影響することがあります。
また、強い痛みを抱えたままの生活は、睡眠不足やストレスの増加につながり、妊娠後期の心身の負担を大きくします。市販の痛み止めを自己判断で飲み続けることも、薬の選び方や回数によっては好ましくありません。妊娠後期の歯痛は、早めに歯医者で原因を確認し、必要な範囲で応急処置や適切な治療を受けることで、負担を抑えながら対応できる可能性があります。
「赤ちゃんへの影響が心配」で受診をためらう方へ
妊娠後期に歯医者へ行くことに対して、「麻酔は赤ちゃんに影響しないか」「痛み止めやレントゲンは大丈夫なのか」と不安に感じる方は多くいらっしゃいます。実際には、妊婦さんへの配慮を前提とした歯科治療であれば、母体とおなかの赤ちゃんの安全に配慮しながら進めることができます。
たとえば、必要最小限の範囲で行う局所麻酔や、撮影範囲を絞り防護エプロンを用いた歯科用レントゲンは国際的な基準でも被ばく量が非常に少ないとされており、必要に応じて実施されることがあります。痛み止めについても、妊娠後期に使用が検討される薬剤があり、産科の先生と連携しながら選択することが可能です。「妊娠後期だから何もできない」のではなく、「妊娠後期だからこそ、無理のない範囲でできることを一緒に考える」というイメージで捉えていただくとよいかもしれません。不安な点は遠慮なく歯科医師に伝えたうえで、妊娠後期の歯痛に対する応急処置や治療方針を相談していきましょう。
妊娠後期の身体変化と歯痛の基礎知識
妊娠後期に起こるホルモン変化と口腔内環境の関係
妊娠後期は、女性ホルモンであるエストロゲンやプロゲステロンが大きく変動し、全身にさまざまな影響が及ぶ時期です。これらのホルモンは血管の拡張や水分量の変化を引き起こし、歯ぐきが腫れやすくなることがあります。また、ホルモン変化により免疫バランスが変わり、細菌への抵抗力が低下することで、歯周病や歯ぐきの炎症が悪化しやすくなります。
こうした炎症反応は、わずかな刺激でも痛みを感じやすい状態につながり、妊娠後期の歯痛を引き起こす一因となります。さらに、口腔内の環境変化によって細菌が増えやすくなり、虫歯リスクも高まるため、歯の痛みを感じやすい時期でもあります。妊娠後期の歯痛には、このようなホルモン変化が深く関わっていることを理解しておくと、不安が軽減し、適切な対策につながります。
妊娠中の歯ぐきの腫れ・出血・虫歯リスクが高まる理由
妊娠中に歯ぐきの腫れや出血が起こりやすくなる背景には、ホルモンバランスの変化だけでなく、日常生活の変化も大きく関係しています。妊娠後期は、つわりによる歯磨きの負担が残っていたり、食事のタイミングが不規則になったりすることで、口腔内に食べ物が残りやすくなる傾向があります。
また、唾液の量が減少したり、唾液の性質が変化したりすることで、口の中の自浄作用が弱まり、細菌が増えやすい状態が続きます。こうした環境が重なると、歯ぐきの炎症が起こりやすくなり、軽い刺激でも出血を伴う場合があります。さらに、虫歯の原因となる細菌が増えることで、歯がしみる・ズキズキするなどの痛みが生じやすくなります。妊娠中の歯痛を防ぐためには、丁寧な歯磨きや定期的な歯医者でのチェックが役立ちます。
歯の痛みに直結する妊娠後期ならではの生活要因
妊娠後期は、生活環境や身体の変化が重なり、歯痛を感じやすくなる要因が増える時期です。例えば、胃の圧迫による胃酸の逆流は、歯の表面を弱くし、知覚過敏や虫歯を進行させる要因となります。
また、眠りづらさや姿勢の変化から、寝ている間に強い歯ぎしりや食いしばりが起こりやすくなり、歯や歯ぐきに負担がかかることで痛みにつながることがあります。加えて、お腹が大きくなることで一度に食事をとりにくくなり、間食の回数が増えると、虫歯リスクが高まります。妊娠後期特有のこうした生活要因が重なると、普段より歯が敏感になり、痛みを感じやすくなるのです。歯痛がある場合や不安を感じる場合は、早めに歯医者へ相談し、応急処置や痛み止めの使用について適切なアドバイスを受けることが安心につながります。
歯痛と妊娠後期の密接な関係を理解する
「歯ぐきの炎症」と「痛み」のメカニズム
歯ぐきは、歯を支えるクッションのような役割を持つ軟らかい組織です。ここに炎症が起こると、腫れや赤みだけでなく、ズキズキとした歯痛として感じられることがあります。妊娠後期はホルモンバランスの変化により、歯ぐきの血流が増え、少しの歯垢(プラーク)でも強く反応しやすくなります。
その結果、「妊娠性歯肉炎」と呼ばれる状態になりやすく、ブラッシングの刺激や噛む力、冷たい飲み物などが痛みの引き金になります。炎症が強くなると、歯ぐきの中にある神経が圧迫され、じんじんする・浮いたように感じるなどの症状が出ることもあります。
こうした炎症に起因する痛みは、鎮痛剤だけに頼るよりも、原因となる汚れの除去や、歯医者での専門的なクリーニング・応急処置で落ち着くことが多いため、「妊娠後期だから仕方ない」と我慢せず、早めの相談が大切です。
虫歯・歯周病・知覚過敏の症状の違いと見分け方
同じ「妊娠後期の歯痛」といっても、原因によって症状の出方は異なります。虫歯は、冷たいものや甘いものがしみることから始まり、進行すると何もしなくてもズキズキと痛むことが多い病気です。歯周病は、歯ぐきの腫れや出血、噛んだときの違和感が特徴で、「歯が浮いた感じ」や鈍い痛みとして自覚されることがよくあります。
一方、知覚過敏は、歯ブラシが当たった瞬間や冷たい風・水が触れたときに、キーンと短時間だけ鋭い痛みが走るのが典型的です。妊娠中はこれらが複合して起こることも少なくありません。自己判断で市販の痛み止めだけを使い続けると、原因が見逃されることがあります。どのタイプの痛みかを大まかに把握しつつ、診断は歯医者に任せることが、安全に応急処置や治療方針を決めるうえで重要です。
妊娠後期に悪化しやすい口腔トラブルとその背景
妊娠後期は、もともとあった小さなトラブルが表面化・悪化しやすい時期です。以前からあった虫歯や軽い歯周病が、ホルモン変化や生活リズムの乱れによって歯痛として現れることがあります。また、お腹が大きくなることで仰向けでの睡眠が難しくなり、横向きでの睡眠やいびき・歯ぎしりが増えると、歯や顎への負担が大きくなります。
さらに、胃酸の逆流や間食の増加により、歯の表面が酸にさらされやすくなり、知覚過敏やエナメル質の脱灰が進むこともあります。こうした背景が重なると、「急に悪くなった」と感じる妊娠後期の歯痛が生じます。無理に我慢するより、早めに歯医者で状態を確認し、妊娠後期でも可能な範囲で応急処置や清掃指導を受けることが、母体と赤ちゃんの負担を減らすことにつながります。
治療は可能?妊娠後期でもできる処置と注意点
妊娠後期でも対応できる一般的な歯科治療とは
妊娠後期でも、体調や産科医の指示に配慮しながら進められる治療が多くあります。まず、痛みや腫れの原因となる虫歯や歯周病の治療は、症状の悪化を防ぐためにも早めの対応が望ましいとされています。妊娠後期はお腹が大きく、仰向けの姿勢が負担になることがあるため、必要に応じて体勢を調整しながら治療を進めます。歯のクリーニングや歯石除去は、歯ぐきの炎症を軽減するために特に有効で、比較的負担も少ない処置です。
また、応急的な詰め物や薬剤の塗布といった症状の緩和を目的とした治療も行えます。妊娠後期は治療の範囲や方法に配慮が必要ですが、痛みを我慢するよりも歯医者で適切に状態を確認し、可能な範囲で治療を進めることが母体にとっても負担を軽くします。
痛み止め・抗生剤は使える?安全性と使用の考え方
妊娠後期の歯痛が強い場合、痛み止めや抗生剤の使用が検討されることがあります。ただし、薬剤によっては妊娠中に使用を避けるべきものもあるため、自己判断で市販薬を飲むことは推奨されません。一般的に、妊娠後期でも、医科と相談したうえで使用が検討される薬剤があり、母体と赤ちゃんの状態をふまえて選択されます。痛み止めは、必要最小限の期間での使用が基本となり、抗生剤は感染の広がりを抑えるために必要と判断された場合に処方されます。
妊娠中の薬の使用は、産科と歯科が連携して判断することで、安全性に配慮しながら進めることができます。「痛みが強いのに薬を使わない方が良い」と我慢することで症状が悪化することもあるため、まずは歯医者に相談し、適切な薬の選択や応急処置について専門的なアドバイスを受けることが大切です。
応急処置でできることと、受診が必要な状態の目安
妊娠後期に歯痛を感じた場合、すぐに治療が難しいときには自宅でできる応急処置が役立ちます。たとえば、患部を清潔に保つことや、冷たいタオルで頬の外側を軽く冷やすことは痛みの軽減につながることがあります。また、刺激の強い飲食物を避け、歯ブラシのあたり方を優しくするだけでも症状が和らぐことがあります。
しかし、強い腫れが続く、夜も眠れないほどの痛み、熱を伴う場合、噛むと激しい痛みが出る場合などは、早めの受診が必要なサインです。特に妊娠後期の歯痛は、炎症が急に進行することがあるため、応急処置だけで乗り切ろうとせず、歯医者で状態を確認してもらうことが安心につながります。痛み止めの使用や治療のタイミングについても、専門家の判断を仰ぐことで、母体と赤ちゃんへの負担を抑えながら適切に対応できます。
不安なく受診するための事前準備と医院選び
妊婦歯科健診と専門性のある歯科医院の探し方
妊娠後期に歯痛がある場合、まず活用したいのが「妊婦歯科健診」です。自治体が実施している妊婦健診では、妊娠期特有の口腔トラブルに配慮したチェックが受けられ、必要な場合は治療や応急処置につなげることができます。健診をまだ受けていない場合でも、妊娠中の患者さんを診療している歯医者であれば、妊娠後期でも対応方法を調整しながら診療が可能です。探すポイントとしては、妊婦への配慮に慣れている医院かどうか、治療方針を丁寧に説明してくれるか、産科と連携をとれる体制があるかが挙げられます。
また、仰向けの姿勢が難しい時期のため、診療チェアの角度調整やクッションの使用など、妊娠後期でも負担を減らす工夫をしている医院を選ぶと安心です。口コミだけに頼るのではなく、公式サイトに妊娠中の診療についての記載があるかも参考になります。
受診前に伝えておくと安心な情報
妊娠後期の受診では、事前にいくつかの情報を歯医者へ伝えておくことで、安全かつスムーズな診療につながります。まず、「妊娠週数」と「現在の体調」は重要です。体勢の調整や治療内容の判断に関わるため、正確に伝えるようにしましょう。
また、これまでの妊娠経過、産科での注意事項、使用中の薬、アレルギー歴なども共有すると、薬剤の使用可否や治療方針の判断に役立ちます。歯痛がある場合は、痛みが出るタイミング(冷たい物がしみる・噛むと痛い・何もしなくても痛むなど)も具体的に伝えることで、原因の特定がしやすくなります。「長時間の仰向けがつらい」「息苦しくなりやすい」などの身体的な不安も遠慮なく伝えるとよいでしょう。妊娠後期は個人差が大きいため、事前共有が診療の負担軽減に直結します。
妊娠後期の受診で気をつけたい体勢・持ち物・時間帯
妊娠後期の受診では、身体への負担を減らすための工夫が大切です。診療チェアに座る際は、仰向け姿勢がつらい場合が多いため、角度を浅めに調整してもらうことで、息苦しさが軽減されます。また、腰や背中を支えるクッション、膝の下に置けるタオルなどを持参しておくと、長時間の診療でも姿勢が安定しやすくなります。
持ち物としては、母子手帳、使用中の薬をまとめたメモ、産科の連絡先があると安心です。時間帯は、体調が比較的安定しやすい午前中を選ぶ方が多く、急な体調変化が起きた場合でも対応しやすいという利点があります。
また、食後すぐの受診は逆流症状が出やすいため、少し時間を空けると快適に診療を受けられます。妊娠後期は小さな工夫が安心感につながるため、無理のない受診環境を整えることが大切です。
今日からできるセルフケアと家庭での応急対応
痛みをやわらげる生活習慣とセルフケアポイント
妊娠後期は身体が敏感になりやすく、歯痛を強く感じやすい時期です。まず心がけたいのは、口の中を清潔に保つことです。歯ブラシはやわらかめを選び、痛みがある部分は強くこすらず、優しい力で時間をかけて磨くことがポイントです。磨きにくい場合は、フロスや歯間ブラシを無理に使わず、できる範囲で清掃を続けましょう。
また、温かい飲み物や刺激の少ない食事に切り替えると、しみる痛みがやわらぐことがあります。冷たい風や冷水で痛みが出る場合は、マスクを活用して口元を保温するのも有効です。
さらに、夜間の食いしばりが痛みにつながることがあるため、就寝前に肩や首を軽くほぐし、リラックスした状態に整えることもおすすめです。妊娠後期は無理をしない範囲で、生活の中の小さな工夫を積み重ねることが歯痛対策につながります。
自宅でできる応急処置の方法と注意点
痛みが強いとき、すぐに歯医者へ行けない場合は、家庭で行える応急処置が役立ちます。まず、患部の周囲を丁寧にゆすいで清潔に保つことが基本です。ぬるま湯や、薄い食塩水で軽くゆすぐと炎症を落ち着かせやすくなります。
また、頬の外側からタオルを巻いた保冷剤で軽く冷やすと、腫れや痛みがやわらぐことがあります。ただし、歯そのものに冷たいものを直接当てると、知覚過敏が悪化することがあるため避けてください。強い痛みが続く場合は、妊娠後期でも使用が検討される痛み止めがありますが、自己判断で市販薬を使用せず、医師の指示を仰ぐことが大切です。
また、応急処置は一時的な対策であり、原因を改善するものではないため、症状が落ち着いても歯医者での受診を検討しておくと安心です。
やってはいけないセルフケアと症状悪化のサイン
妊娠後期の歯痛は敏感になりやすいため、間違ったセルフケアが症状を悪化させることがあります。まず避けたいのは、痛む部分を強くこすったり、爪や硬い道具で歯の汚れを無理に取ろうとすることです。炎症を広げ、歯ぐきを傷つける原因になります。
また、市販の強力な鎮痛剤や患部に直接貼るタイプの薬剤を自己判断で使用することも推奨されません。薬剤によっては妊娠後期に適さないものがあるため、専門家の判断が必要です。
さらに、「痛みがひどいのに何日も様子を見る」という行動も危険です。腫れが急に広がる、発熱を伴う、噛むだけで強く痛む、夜中に痛みで目が覚めるなどの症状は、早めに歯医者に相談すべきサインです。応急処置やセルフケアで無理に対処しようとするよりも、早期の専門的な診断が母体にも赤ちゃんにも負担をかけずにすむ対応につながります。
妊娠後期の歯痛に関するよくある疑問(FAQ)
「出産まで我慢しても大丈夫?」の本当のところ
妊娠後期はお腹が大きく、受診の負担が増えることから「あと数週間だから我慢しよう」と考える方は少なくありません。しかし、歯痛の原因が虫歯や歯周病、炎症によるものの場合、放置すると症状が急速に悪化することがあります。特に、感染が進行すると腫れや発熱につながり、体力を消耗してしまう可能性があります。
また、強い痛みが続くことで睡眠や食事に影響し、妊娠後期の体調管理に支障をきたすこともあります。「妊娠していると歯医者で治療ができない」というイメージをお持ちの方もいますが、妊娠後期であっても必要最低限の治療や応急処置は受けられることが多いのが実際です。我慢を続けるより、早めに歯科医師に相談し、身体への負担が少ない治療方法を一緒に検討することが安心につながります。
痛み止めはどの程度まで使用して良いのか
妊娠後期に痛み止めを使用する場合は、必ず医師の判断に基づいて選択することが重要です。痛み止めの中には、妊娠後期の使用が推奨されないものもあり、自己判断で市販薬を飲み続けることは避けるべきです。歯痛が強い場合には、妊娠中でも比較的使用が検討される薬剤があり、産科医と歯科医が連携しながら、必要な量と期間を調整することができます。
痛み止めはあくまで症状を一時的に和らげるもので、原因を治すものではありません。長期間にわたり飲み続けると痛みの原因を見逃してしまう可能性があるため、痛みが続くときは早めに歯医者で診察を受けることが大切です。妊娠後期の歯痛に対して適切な治療を行うことで、痛み止めに依存しない状態へ近づけることができます。
レントゲン撮影や麻酔は本当に避けたほうが良い?
妊娠中はレントゲンや麻酔を避けたほうが良いというイメージがありますが、歯科治療におけるこれらの処置は、適切な配慮のもとであれば妊娠後期でも行える場合があります。歯科用レントゲンは撮影範囲が限られており、お腹から離れた位置で行われるため被ばく量が非常に少なく、防護エプロンを使用することでさらに影響を抑えることができます。麻酔についても、局所的に作用するものであり、必要最小限の量で使用されるため、安全性に配慮しながら治療が可能です。
ただし、レントゲンや麻酔が必須かどうかは症状や治療内容によって異なるため、歯科医師と相談しながら判断することが大切です。「妊娠後期だから治療ができない」と思い込まず、適切な説明と対策のもとで治療を受けることで、より安全に症状改善へとつなげていくことができます。
歯科医師がすすめる“賢い受診タイミング”
今すぐ相談すべきケースの判断基準
妊娠後期の歯痛は「様子を見てもよい場合」と「できるだけ早く歯医者に相談した方がよい場合」に分かれます。とくに注意したいのは、①夜眠れないほど強い痛みが続く、②歯ぐきや頬が腫れてきた、③噛むと電気が走るように強く痛む、④発熱やだるさを伴う、といった症状です。これらは炎症や感染が進んでいるサインで、痛み止めだけで乗り切ろうとすると悪化することがあります。
また、「同じ場所が何度も腫れる」「妊娠前から痛みを繰り返している」場合も、出産後に急に症状が強くなることがあるため、妊娠後期のうちに一度は状態を確認しておくと安心です。痛みが軽くても、応急処置で済むのか、出産前に治療を始めた方がよいのかは、口の中を見なければ判断がつきません。「我慢できないほどではないから」と自己判断せず、迷った時点で一度歯科医師に相談することが、賢い受診タイミングと言えます。
妊娠後期でも無理なく受診できる環境づくり
妊娠後期に無理なく歯医者を受診するためには、「タイミング」と「環境」の準備がポイントになります。まずは、体調が比較的安定しやすい時間帯(午前中など)を選び、予約時に妊娠週数と歯痛の有無を伝えておくと、短時間で終わる処置や応急処置を優先してもらいやすくなります。お腹が大きくなると長時間の仰向けがつらくなるため、「途中で体勢を変えたい」「クッションを使いたい」といった希望があれば、事前に遠慮なく伝えておきましょう。
また、一人での受診が不安な場合は、付き添いの方と一緒に来院することも検討できます。産科で言われている注意点や、内服中の薬があればメモにして持参しておくと、歯科側でも痛み止めや治療内容を決めやすくなります。妊娠後期でも、こうした準備を整えておくことで、負担を抑えながら必要な歯科治療や応急処置を受けやすくなります。
出産前に整えておきたい“お口の安全預防”
出産前は「大きなトラブルを起こしにくい口の状態」に整えておくことが大切です。妊娠後期は治療の優先順位をつけ、「今、痛みや腫れの原因になっている部分」と「出産後まで経過観察でよい部分」を歯科医師と相談しながら整理していきます。
具体的には、強い歯痛の原因となりやすい深い虫歯や、膿がたまりやすい歯ぐきの炎症部位を中心に、できる範囲で治療や応急処置を行います。同時に、歯石除去やブラッシング指導など、予防的なケアを受けておくことで、出産前後の忙しい時期に急な痛みが出るリスクを減らすことが期待できます。
また、出産後は授乳や育児で自分の通院時間が取りにくくなるため、「産後○か月頃に本格的な治療を再開する」といった目安を歯医者と共有しておくと安心です。妊娠後期の段階で予防と応急対応のバランスを取っておくことが、母子ともに落ち着いて出産を迎える一助になります。
出産後を見据えた口腔ケアの重要性
産後の生活変化で起こりやすい口腔トラブル
出産後は、赤ちゃん中心の生活になり、自分のことはつい後回しになりがちです。睡眠不足や不規則な食事、授乳による水分不足などが重なると、唾液の量が減り、口の中が乾きやすくなります。唾液には自浄作用があるため、減少すると虫歯や歯周病のリスクが高まり、妊娠後期から続いていた歯痛が産後に悪化することもあります。
また、手早く食べられる甘味の多いお菓子や飲み物が増えると、歯の表面が酸にさらされる時間が長くなり、知らないうちに虫歯が進行する場合もあります。抱っこや授乳の姿勢で首・肩がこわばると、食いしばりや歯ぎしりが強くなり、歯や顎の痛みにつながることも少なくありません。
こうした産後特有の環境変化を理解し、「妊娠中だけでなく、出産後も口腔ケアが大切な時期が続く」という意識を持つことが、将来のトラブル予防につながります。
授乳期の治療・薬の使用に関する基本知識
授乳中は「歯医者で治療しても大丈夫?」「痛み止めや抗生剤は母乳に影響しない?」と心配される方が多くいらっしゃいます。一般的に、歯科で用いられる局所麻酔は、適切な量であれば血中に入る量が限られており、授乳中にも使用が検討されることがあります。
また、歯科で処方される痛み止めや抗生剤の中には、授乳期でも使用が検討される薬剤があり、種類や量を選べば母乳への影響を抑えながら治療を進めることが可能です。ただし、自己判断で市販薬を飲み続けることは避け、必ず医師・歯科医師に授乳中であることを伝えたうえで指示を受けることが重要です。妊娠後期から続く歯痛を、痛み止めや応急処置だけでやり過ごすのではなく、授乳期の治療方針も含めて相談できる歯医者をかかりつけとして持っておくと安心です。
出産後の再発防止と継続ケアのポイント
出産後の再発防止には、「その場しのぎで終わらせない」ことが大切です。妊娠後期や産後に応急処置で落ち着いた歯痛も、原因となる虫歯や歯周病をきちんと治療しなければ、再び痛みが出る可能性があります。育児で忙しい時期だからこそ、短時間で行えるホームケアを習慣化することがポイントです。
例えば、寝かしつけ後の数分だけでも丁寧に歯を磨く、フッ素入り歯みがき剤を継続して使う、間食の回数や内容を意識するなど、小さな工夫の積み重ねが予防につながります。
また、落ち着いて通院できる時期を歯科医師と相談し、定期検診やクリーニングの計画を立てておくと、トラブルが大きくなる前に対処しやすくなります。妊娠後期から出産後までの流れの中で、お口の状態を継続して管理していくことが、ご自身の健康と育児を支える大切な土台となります。
妊娠後期の歯痛に悩む方へのまとめと次のステップ
不安を手放し「今できる一歩」を整理する
妊娠後期の歯痛は、「赤ちゃんに影響がないか」「治療しても大丈夫か」と不安が重なりやすい症状です。まずは、「どこが・いつ・どんなときに痛むのか」を簡単にメモしてみましょう。冷たい物でしみるのか、噛んだときだけ痛いのか、何もしていなくてもズキズキするのかなどを書き出すことで、歯医者での診察もスムーズになります。
そのうえで、今日からできるセルフケア(やさしい歯磨き、刺激の少ない食事、頬の外側を冷やすといった応急処置)と、「早めに受診したほうがよいサイン(強い痛み・腫れ・発熱など)」を頭の中で整理しておくと、不安の整理に役立つことがあります。「我慢するか、受診するか」ではなく、「今できることをしながら、必要に応じて専門家に相談する」という視点に切り替えることが、次の一歩につながります。
妊娠期の歯科治療の考え方を改めて確認する
妊娠後期は「治療してはいけない時期」ではなく、「母体と赤ちゃんに配慮しながら、必要な範囲で治療や応急処置を行う時期」と考えるとイメージしやすくなります。たとえば、強い歯痛の原因となる大きな虫歯や、腫れを繰り返す歯ぐきの炎症を放置すると、痛み止めだけでは対応が難しくなり、生活そのものに支障が出ることがあります。
一方で、急がなくてもよい小さな虫歯や、経過観察でよい状態もあります。妊娠中の歯科治療では、「今やるべきこと」と「出産後に本格的に治す部分」を整理し、段階的な治療計画を立てることがポイントです。痛み止めはあくまで一時的なサポートであり、原因を改善するためには歯医者での診断と治療が欠かせません。妊娠期だからこそ、無理のない治療方針を一緒に考えてもらうことが大切です。
安心して相談できる歯科医師との連携が大切
妊娠後期の歯痛に向き合ううえで重要なのは、「何でも相談できる歯科医師」が身近にいることです。妊娠週数や体調、産科で言われている注意点、服用中の薬などを丁寧に聞き取ってくれる歯医者であれば、レントゲンや麻酔、痛み止めの使用についても、産科と連携しながら判断してもらいやすくなります。
また、妊娠中は応急処置を中心に行い、出産後に本格的な治療へ移行する…といった中長期的なプランを一緒に立ててくれることも安心材料になります。「こんなことを聞いてもいいのかな」と遠慮せず、不安や疑問は率直に伝えてください。妊娠後期・授乳期を通してお口の状態を見守ってくれる歯科医師との連携は、歯痛への不安を軽くし、安心して出産・育児に向き合うための大きな支えになります。
監修:愛育クリニック麻布歯科ユニット
所在地〒:東京都港区南麻布5丁目6-8 総合母子保健センター愛育クリニック
電話番号☎:03-3473-8243
*監修者
愛育クリニック麻布歯科ユニット
ドクター 安達 英一
*出身大学
日本大学歯学部
*経歴
・日本大学歯学部付属歯科病院 勤務
・東京都式根島歯科診療所 勤務
・長崎県澤本歯科医院 勤務
・医療法人社団東杏会丸ビル歯科 勤務
・愛育クリニック麻布歯科ユニット 開設
・愛育幼稚園 校医
・愛育養護学校 校医
・青山一丁目麻布歯科 開設
・区立西麻布保育園 園医
*所属
・日本歯科医師会
・東京都歯科医師会
・東京都港区麻布赤坂歯科医師会
・日本歯周病学会
・日本小児歯科学会
・日本歯科審美学会
・日本口腔インプラント学会
カテゴリー:コラム 投稿日:2025年12月26日