歯周病があっても矯正できる?マウスピースとワイヤーの適応差
目次
「歯周病があると矯正は無理」と諦めていませんか

前歯が出てきた、隙間が空いてきた
以前はきれいに並んでいた前歯が前方に傾き、歯と歯の間に隙間が目立ち始めた場合、歯並びそのものの問題ではなく、歯を支える土台の変化が関係していることがあります。成人になってから急に前歯の位置が変わるのは、歯周組織の支えが弱まったサインとして現れるケースが知られています。
鏡を見るたびに気になる、写真で口元が以前と違う、笑ったときに隙間が目立つ。こうした変化は見た目の悩みとして語られがちですが、臨床的には歯ぐきの内部で起きている変化の表れとして受け止める必要があります。
「矯正で並べ直せば解決する」と考えて装置の比較から入る方は少なくありません。ただ、土台が変化した結果として動いた歯を、原因に触れないまま並べ直すと、同じ方向への移動が再び起こる可能性があります。前歯が出てきた時期と、歯ぐきの違和感が気になり始めた時期が重なっていないか、記憶をたどってみる価値があります。
歯ぐきからの出血を見て見ぬふりをしていた
歯みがきのたびに血がにじむ状態は、歯ぐきの中で炎症が続いている状態を示しています。出血は痛みを伴わないことが多いため、「疲れているから」「強く磨きすぎただけ」と解釈して様子を見てしまう方が多くいらっしゃいます。実際には、炎症が続く間は歯を支える骨が少しずつ影響を受けている可能性があります。
仕事と子育てが重なる年代では、自分の通院は後回しになりがちです。痛みがなく日常生活に支障がなければ、受診のきっかけをつかみにくいのも自然なことだと言えるでしょう。
ここで知っておきたいのは、出血の有無が矯正の可否を判断する際の重要な材料になるという点です。歯ぐきからの出血が続いている状態で歯に力をかけると、炎症が加速する方向に働くことがあります。逆に言えば、出血という分かりやすいサインがあるうちに検査を受けることで、矯正に進める道筋を立てやすくなります。
装置選びより先に確かめたいこと
歯周病がある方が最初に確認すべきなのは、マウスピース矯正とワイヤー矯正のどちらを選ぶかではなく、歯を動かせるだけの土台が残っているかどうかです。どれほど装置の性能を比較しても、歯槽骨(歯を支える骨)の支持が不足していれば、装置の種類にかかわらず計画自体を組み直す必要が出てきます。
検査では、歯周ポケットの深さ、出血の有無、歯の動揺の程度、レントゲンやCTで確認する骨の高さなどを総合して判断します。この結果によって、すぐに矯正へ進めるのか、歯周治療を先行させるのか、動かす範囲を限定するのかという方針が分かれていきます。
当院では歯周病治療と矯正歯科の双方に対応しており、矯正治療は矯正を専門とする歯科医師が担当します。港区・麻布エリアで歯ぐきの状態に不安を抱えながら歯並びを相談したい方にとって、まず現状を数値で把握することが、装置選びの判断材料そのものになります。
歯ならびの乱れと歯ぐきの炎症がつながる仕組み

歯を支える歯槽骨が減るとどうなるか
歯槽骨が減ると、歯は根の浅い部分だけで支えられる状態になり、同じ力でも大きく揺さぶられるようになります。歯の根は本来、骨の中にしっかり埋まり、歯根膜という薄いクッションを介して力を受け止めています。この埋まっている深さが浅くなるほど、てこの原理で歯冠側に加わる力が根の先に強く伝わるようになります。
歯周病による骨の減り方は、全体が平らに下がる場合もあれば、特定の歯の周囲だけが深くえぐれるように失われる場合もあります。後者では、隣の歯は安定しているのに1本だけ動きが大きいという、ちぐはぐな状態が生まれます。
この「支えの弱さ」は鏡を見ても分かりません。歯ぐきは歯の根元を覆っているため、内側で骨が下がっていても外見上は大きく変わらないことがあります。骨の高さを客観的に知るには、レントゲン画像と歯周組織の検査を組み合わせて確認する必要があります。
歯周病で前歯が動いて隙間が広がる流れ
前歯が出てきた、すき間が目立つようになったという変化は、歯周病が進んだ部位で起こりやすい代表的な現象です。支えが弱った歯は、唇や舌の圧力、食事のときの力といった日常的な力に抵抗しきれなくなります。その結果、前方へ押し出されるように傾き、歯と歯のあいだが開いていきます。
この動き方は、もともとの歯並びの乱れとは性質が異なります。矯正で意図的に歯を動かす場合は、骨が健康な環境で計画的に力を加えます。歯周病による移動は、炎症で組織が壊れた結果として起こる、制御されていない変化だと言えるでしょう。
「数年前の写真と比べると前歯の位置が違う」と気づく方は少なくありません。歯並びが変わったという自覚は、見た目の問題だけでなく、歯を支える組織に変化が起きているサインとして受け止める視点が役立ちます。
噛む力が一部の歯に集まる悪循環
歯が動いて並びが崩れると、噛み合わせの接触点が偏り、特定の歯だけに過剰な力が集中します。支えが弱っている歯ほど先に当たりやすくなり、その歯がさらに揺さぶられるという循環に入っていきます。力そのものが歯周病を起こすわけではありませんが、炎症がある状態に強い力が重なると、骨の吸収が加速する場合があることが知られています。
朝起きたときに前歯が浮いた感じがする、硬いものを前歯で噛み切りにくい、特定の歯だけ冷たいものがしみる。こうした小さな違和感は、力の偏りが起きている部位で現れやすい変化です。
炎症と力、この2つが同時に働いている状態では、歯ぐきの治療だけでも歯並びの改善だけでも収まりきらないことがあります。歯周病と矯正を切り離さず、どちらの要因がどれだけ関与しているかを見極めることが、治療計画の出発点になります。
歯を動かせるかどうかは歯槽骨の支持で決まる

歯根が骨に埋まっている割合という指標
矯正で歯を動かせるかどうかを左右するのは、歯並びの乱れ方そのものではなく、歯根がどれだけ歯槽骨に埋まっているかという支持の量です。歯根の長さに対して骨に包まれている部分が十分に残っていれば、力をかけても歯はゆっくり移動し、新しい位置で安定しやすくなります。
反対に骨の高さが歯根の中ほどまで下がっている場合、歯は支点が浅くなり、わずかな力でも傾きやすい状態に変わります。同じ100グラムの力でも、骨の支えが減った歯では歯根の先端にかかる負担が大きくなるという点が、健康な歯列との決定的な違いと言えるでしょう。
この支持量は見た目や触診では判断できません。歯周ポケットの測定とレントゲン、必要に応じたCTによる立体的な確認を組み合わせ、1本ずつ「どの程度の力までなら許容できるか」を見積もるところから矯正計画が始まります。
炎症がある骨と落ち着いた骨の違い
骨の量が同じでも、炎症が残っている歯と炎症が鎮まった歯では、矯正の歯の移動リスクがまったく異なります。歯周病菌による炎症が続いている状態では、骨を壊す働きが優位になっており、そこへ矯正の力が加わると骨の吸収が加速する方向に働くことが知られています。
一方、歯周治療によって出血やポケットからの膿が落ち着いた骨は、力を受けたときに「吸収」と「新しく作られる」バランスが保たれやすくなります。矯正は本来、圧力がかかった側の骨が吸収され、引っ張られた側に骨が作られることで歯が動く仕組みです。この修復の働きが機能する環境を整えてから動かす、という順序に意味があります。
「歯ぐきから血が出るけれど、見た目は普通だから大丈夫だろう」と感じている方もいらっしゃいます。出血は炎症が活動している合図であり、矯正の開始時期を判断するうえで無視できない所見です。
動揺のある歯に力をかけたときのリスク
すでにぐらつきがある歯に無計画な矯正力を加えると、動揺が強まったり、歯根の先端が短くなる歯根吸収が起こったりする可能性があります。炎症が残ったまま歯を移動させた場合、ポケットの奥にある汚れを骨の深い部分へ押し込む形になり、骨の欠損が広がることも懸念されます。
ただし、動揺があること自体が矯正を断念する理由になるとは限りません。炎症を抑えた後の動揺は、骨が減ったことによる「構造的な揺れ」と、噛み合わせの負担による「一時的な揺れ」に分けて評価します。後者であれば、噛み合わせの調整や歯の移動によってむしろ落ち着く場合もあります。
判断を分けるのは、力の大きさと期間の設計です。マウスピース矯正でもワイヤー矯正でも、歯周組織が弱った歯列では1回あたりの移動量を抑え、経過を細かく確認しながら進める設計が前提になります。この設計の有無が、同じ装置でも結果に差を生む要因です。
歯科医が矯正の可否を見極めるときの判断軸

歯周ポケットの深さと出血の有無
矯正を始められるかどうかの入口となるのが、歯周ポケット(歯と歯ぐきのすき間)の深さと、検査時に出血するかどうかです。深さの数値が浅くても、探針を当てたときに血がにじむ部位は、歯ぐきの内側で炎症が続いているサインと読み取ります。この状態のまま装置をつけると、炎症と歯の移動が同時進行してしまう可能性があります。
検査では1本の歯につき複数の部位を測り、数値のばらつきも見ていきます。全体は落ち着いているのに前歯の1か所だけ深い、といった偏りがある場合、そこに力をかけてよいかは慎重な判断を要します。
「歯みがきのときに血が出るけれど痛くはない」という状態を軽く見てしまう方は少なくありません。痛みの有無と炎症の程度は一致しないため、出血の記録は矯正開始時期を決める材料として重みを持ちます。
レントゲン・CTで読む骨の高さと歯根形態
歯槽骨がどこまで残っているかは、画像検査でしか正確に把握できません。当院ではCT・レントゲンを用いて、歯根に対して骨がどの高さまで付いているか、吸収が水平に進んでいるか一部だけ深くえぐれているかを確認しています。骨の減り方の形によって、動かせる方向や力のかけ方の制約が変わってきます。
あわせて見るのが歯根の形と長さです。歯根が短い、細い、先端が曲がっているといった条件があると、同じ力でも歯根の先に負担が集中しやすくなります。前歯は歯根が1本で薄い骨に囲まれているため、唇側へ傾けすぎると骨から逸脱する懸念もあります。
画像で得た情報は、マウスピース矯正とワイヤー矯正のどちらが適するかという装置選びにも直結します。骨の支持が限られる部位をどこまで動かすかという設計は、数値と画像を突き合わせて組み立てていくものだと言えるでしょう。
日々のセルフケアが続けられているか
装置を装着できる状態かどうかは、患者さん自身の清掃が安定しているかにも左右されます。矯正装置は食べかすやプラークが停滞しやすい環境をつくるため、治療前と同じ磨き方では汚れが残りやすくなります。歯間ブラシやフロスを使えているか、磨き残しが特定の部位に偏っていないかを、ブラッシング指導のなかで一緒に確認していきます。
仕事と子育てで時間が取りにくい方にとって、毎日のケアを増やすのは簡単ではないはずです。磨く回数を増やすより、夜の1回を丁寧に仕上げる方が現実的な場合もあります。生活リズムに合う方法を組み立てることが、結果として歯ぐきの状態を保ちやすくします。
セルフケアの状況は、矯正中の通院間隔を決める判断材料にもなります。清掃が安定している方は標準的な間隔で進められますが、汚れが残りやすい場合は衛生士によるクリーニングを短い周期で挟む設計へ切り替えることがあります。
歯周治療を先に進めることで広がる選択肢

スケーリング・ルートプレーニングの役割
矯正を考えている方にとって、スケーリング・ルートプレーニングは「歯を動かせる状態に土台を整える処置」という位置づけになります。歯と歯ぐきのすき間に入り込んだ歯石や汚れを器具で取り除き、歯根の表面を滑らかに整えることで、炎症を起こしている原因そのものを減らしていきます。
この処置によって歯ぐきの腫れや出血が引くと、歯周ポケットが浅くなり、引き締まった歯ぐきが歯根を再び覆うようになります。当院では歯周病治療としてスケーリングやルートプレーニング、ブラッシング指導を組み合わせ、超音波を使って歯と歯肉の間に潜む原因菌を取り除くケアも行っています。
前歯の隙間が気になっている段階でも、まず炎症をしずめることで歯の揺れが落ち着き、矯正装置を選ぶ土台ができます。炎症が残ったまま力をかけると骨の減りが進む方向に働くため、順番としてこの処置が先に来るという見方ができます。
外科処置や歯周組織の再生が検討される場面
歯石を取りきれない深い部分が残る場合や、骨の減り方が部分的に深い場合には、歯ぐきを開いて直接汚れを除去する外科的な処置が検討されることがあります。器具が届かない歯根の奥や、歯根が枝分かれしている部分には汚れが残りやすく、表面からの清掃だけでは炎症が引ききらないことが知られています。
骨が縦方向にくぼむように失われているケースでは、失われた歯周組織の再生を目指した治療が考慮される場面もあります。歯を支える土台を少しでも回復させておくことで、矯正で歯を動かしたあとの安定性に差が出てくる可能性があるためです。
こうした処置が必要かどうかは、歯周ポケットの深さや骨の形を精密に確認したうえで判断されます。「手術と聞くと身構えてしまう」と感じる方も多いのですが、すべての歯に必要になるわけではなく、問題が集中している数本に限られることも少なくありません。
炎症が落ち着くまでに必要な期間の目安
歯周治療から矯正開始までには、一般に数か月単位の準備期間を見込むのが現実的です。スケーリングやルートプレーニングを数回に分けて行い、その後に再検査でポケットの深さと出血の有無を測り直す流れになるため、炎症の改善を確認する時間がどうしても必要になります。
外科的な処置を行った場合は、歯ぐきの治癒と組織の落ち着きを待つ期間がさらに加わります。仕事や子育てで通院の間隔が空きがちな方は、この準備期間が長引きやすい点も押さえておきたいところです。
「遠回りに感じる」という声もありますが、炎症がしずまった状態で装置を付けられれば、マウスピース矯正でもワイヤー矯正でも選べる幅が広がります。再検査の数値が改善していく過程は、歯ぐきが矯正の力に耐えられる状態へ近づいているかどうかを判断する手がかりになります。
マウスピース矯正とワイヤー矯正、適応はどう違うか

マウスピース矯正が清掃面で有利な理由
歯周病の既往がある方にマウスピース矯正が選ばれやすい最大の理由は、装置を外して普段通りに歯みがきができる点にあります。歯と歯ぐきの境目にプラークが残り続けることが炎症の再燃につながるため、歯間ブラシやフロスを制限なく使える環境は、歯周組織の管理という面で意味を持ちます。
装置の構造にも違いがあります。歯面に固定される部品が少ないぶん、食べかすや汚れが停滞する場所が限られます。歯ぐきが下がって歯と歯のすき間が広がっている方では、器具の通り道を確保しやすいことも利点と言えるでしょう。
一方で、1日の装着時間が守られないと計画どおりに歯が動かず、治療が間延びすることがあります。仕事の合間や外出先での付け外しが現実的に続けられるかどうかは、装置を決める前に生活リズムと照らし合わせて考えておきたい点です。当院ではマウスピース型矯正装置(インビザライン)による治療に対応しており、歯周組織の状態を踏まえて適応を検討します。
ワイヤー矯正が力のコントロールで強い場面
歯根の向きまで含めて三次元的に動かしたい場合は、ワイヤー矯正のほうが細やかな力の調整に向いています。歯槽骨の支持が減った歯では、歯冠だけが傾いて動く「傾斜移動」が起こりやすく、これを避けて歯根ごと平行に動かす制御が求められる場面があります。
歯周病で前歯が扇状に開いたケースでは、唇側へ倒れた歯を引き戻す際の角度管理が治療結果を左右します。ワイヤーは歯の一本一本に力の方向を設定しやすく、咬み合わせ全体を整えながら段階的に調整していく点が強みという見方ができます。当院の矯正治療は矯正を担当するドクターが受け持ち、ホワイトワイヤーを用いた装置にも対応しています。
装置が固定されるぶん清掃の手間は増えますので、歯周組織に不安がある方では、ブラッシング指導と専門的なクリーニングを組み合わせた管理が前提になります。どちらが優れているかではなく、動かしたい方向と歯ぐきの状態のどちらを優先するかで選択が分かれます。
部分矯正やアンカースクリューの使いどころ
歯列全体を動かさず、気になる前歯だけを整える部分矯正は、歯の移動に伴うリスクを抑えたい場合の選択肢になります。動かす歯の本数と移動量が限られるため、歯根にかかる負担や治療期間を小さくまとめられる可能性があります。前歯のすき間や軽度の出っ張りが主訴であれば、適応に入ることがあります。
ただし咬み合わせのずれが背景にある場合、前歯だけを並べても力の分散が改善せず、後戻りしやすくなります。全体の咬合を診たうえで、部分矯正で完結できるかを見極める工程が欠かせません。
アンカースクリュー(あごの骨に一時的に固定する小さなねじ)は、動かしたくない歯を支点にせず、特定の歯だけに力をかけたいときに用いられます。支えとなる歯への余計な負担を減らせるため、歯槽骨による支持が十分でない歯を含む症例では、設計上の選択肢として検討されることがあります。適応の判断は、骨の状態と移動計画を合わせて行います。
矯正中に歯ぐきを守るための通院設計

矯正と歯周メンテナンスを並走させる
歯周病の既往がある方の矯正では、装置をつけて終わりではなく、歯を動かしている期間中ずっと歯ぐきの管理を同時進行させる形が基本になります。矯正装置が入ると歯みがきの難易度が上がり、汚れが残りやすい部分が増えるためです。炎症が再燃したまま力をかけ続けると、歯を支える骨への負担が増す可能性があります。
具体的には、矯正の調整とは別に、歯科衛生士によるクリーニングやスケーリング、ブラッシング指導の機会を一定間隔で組み込みます。歯周ポケットの深さや出血の有無を定期的に測り直し、数値が悪化していないかを追跡する流れです。
「仕事と子どもの予定で何度も通うのは大変」と感じる方も多いと思います。当院では矯正を担当する歯科医師と衛生士が同じ院内で連携しているため、歯ぐきの状態と歯の動きを一緒に確認しながら進められます。来院の組み立て方も、生活の事情を伺ったうえで相談していきます。
動かす量とスピードを抑える考え方
歯槽骨の支えが減っている歯では、強い力で速く動かすのではなく、弱い力でゆっくり動かす設計が選ばれるのが一般的です。歯を支える骨が少ないほど、同じ力でも歯根の先端にかかる負担が集中しやすく、動揺が増したり歯根の吸収が起こったりするリスクが高まると考えられています。
そのため、目標とする移動量そのものを見直すこともあります。理想的な歯並びを追求するより、前歯の隙間を目立たない程度まで整える、噛み合わせの当たりを分散させる、といった現実的なゴールに調整する方針です。マウスピース矯正では交換のペースを緩めに設定する、ワイヤー矯正では細くしなやかなワイヤーを長めに使う、といった対応が検討されます。
「早く終わらせたい」という気持ちは自然なものですが、歯ぐきの状態が整っている方と同じスケジュールを当てはめると、かえって途中で中断が必要になることもあります。動かす速さは、骨の回復を待つための時間でもあるという見方ができます。
治療後の保定で後戻りと再発を防ぐ
歯周病があった方の矯正では、装置を外した後の保定がとりわけ重要な意味を持ちます。歯を支える骨や歯ぐきの線維が元の位置を記憶しているため、動かした直後の歯は不安定で、支えが弱いほど元の場所へ戻ろうとする力が働きやすいからです。前歯が再び開いてくる後戻りは、この時期の管理で差が出ます。
保定装置には、歯の裏側に細いワイヤーを固定するタイプと、取り外し式のマウスピース型のタイプがあります。歯の動きやすさ、清掃のしやすさ、噛み合わせの状態などを踏まえて選択します。固定式は装着忘れがない反面、歯石がつきやすい部分ができるため、その周囲のケアを丁寧に行う必要があります。
保定期間中も、歯周ポケットの検査とクリーニングは続けていきます。矯正で歯並びが整うと歯ブラシが届く範囲が広がり、以前より汚れを落としやすくなる方もいます。整った歯列を維持できるかどうかは、この段階の通院をどう生活に組み込めるかにかかってきます。
「もう手遅れ?」──相談前によくある疑問

歯がぐらついていても矯正できる?
ぐらつきがある時点で矯正が一律に不可能になるわけではありません。揺れの原因が炎症によるものか、噛む力の偏りによるものかで見通しが変わります。炎症が主な原因であれば、歯周治療で歯ぐきの腫れが引き、ポケットの深さが浅くなるにつれて揺れが落ち着いてくることがあります。
一方、歯槽骨そのものが大きく失われて支えが減っている場合は、揺れが完全には消えません。この場合でも、動かす本数を絞る、力を弱める、噛み合わせの当たりを調整するといった工夫で歯の移動を計画できるケースはあります。
判断を分けるのは「揺れているかどうか」ではなく、「炎症が止まっているか」と「残っている支えの量」の2点です。初診の段階で揺れの程度を記録しておくと、歯周治療後にどれだけ改善したかを数字で比較でき、矯正に進めるかどうかの材料になります。
治療期間が長くなるのではという心配
歯周病を伴う場合、矯正そのものの期間に加えて、その前段階の歯周治療の時間が上乗せされると考えるのが現実的です。歯ぐきの炎症を抑える工程を飛ばして装置を付けると、かえって途中で中断が必要になり、結果的に時間がかかることもあります。
ただし、動かす範囲によって見込みは大きく変わります。前歯の隙間や出てきた傾きだけを整える部分的な治療であれば、全体を動かす場合より短い計画になることがあります。歯の移動スピードを抑える必要があるかどうかも、骨の支持量によって判断が分かれる点です。
仕事と子育てで予定が詰まっている方にとって、期間の見通しが立たないことは不安の種になりやすいものです。精密検査の後には、歯周治療にかかるおおよその段階数と、矯正に移れる条件を具体的に示すことができます。終わりが見えると、途中の通院も組み立てやすくなります。
子育てや仕事で通院が不規則になる場合
通院間隔が空きがちな方ほど、装置選びの段階でその前提を伝えておくことに意味があります。マウスピース型矯正装置(インビザライン)は、一定の枚数をまとめてお渡しし、来院間隔をやや長めに設定できる場合があります。反面、装着時間が短いと予定どおりに動かず、計画の修正が必要になることもあります。
ワイヤー矯正は調整のたびに来院が前提になりますが、自己管理に左右されにくいという特徴があります。どちらが向くかは、歯ぐきの状態だけでなく生活リズムも含めて検討する材料になります。
当院は港区南麻布にあり、お子さんの診療と保護者の方の治療を同じ医院で受けていただける体制を整えています。お子さんの定期検診に合わせてご自身の歯周メンテナンスを組み込めば、来院回数そのものを減らさずに負担を分散できます。
矯正相談先を選ぶときに見ておきたい視点

歯周病と矯正を一緒に診てもらえるか
歯周病がある状態で歯並びを整えるなら、歯ぐきの治療と歯の移動を同じ診療体制のなかで管理できるかどうかが、相談先を選ぶ際の大きな分かれ目になります。装置を決める前に歯周組織の状態を評価し、炎症が落ち着いてから動かし始めるという順序が組めるかどうかで、治療中の負担はかなり変わってきます。
歯周病と矯正が別々に進むと、ポケットの深さが改善しないまま力がかかり続けたり、逆に歯ぐきの治療を優先しすぎて矯正の計画が止まったりすることがあります。当院では矯正治療を矯正専門医が担当し、歯周病治療やスケーリング、ルートプレーニング、衛生士によるメンテナンスと連携しながら進める体制をとっています。
「歯並びの相談なのに歯ぐきの話ばかりされた」と感じる方もいらっしゃいますが、歯を支える土台の評価は、マウスピース矯正とワイヤー矯正のどちらを選ぶかという判断にも直結する情報です。
精密検査でどこまで説明してくれるか
相談先を見極めるうえで確認したいのは、検査の結果を「どの歯が、どの程度の骨で支えられているか」まで言葉にして説明してもらえるかという点です。歯周ポケットの測定値、出血の有無、レントゲンやCTで確認した骨の高さや歯根の形。これらが揃って初めて、歯の移動に伴うリスクをどこまで許容できるかという話ができます。
当院の矯正精密検査では、お口の写真、レントゲン、歯型の模型を用いて現状を把握します。歯槽骨による支持が少ない歯については、動かす量を控える、力をかける方向を変える、部分矯正にとどめるなど、計画の調整が必要になる場合もあります。
説明を受ける際は、治療後の見た目だけでなく、治療中に歯ぐきがどう変化しうるか、どのような所見が出たら計画を見直すのかまで聞いておくと、途中で不安になったときの判断材料になります。
家族単位で長く通える体制かどうか
矯正は年単位の通院になり、終わった後も保定と歯周メンテナンスが続くため、生活動線のなかで無理なく通える場所かどうかが継続性を左右します。仕事と子どもの予定の合間に自分の通院枠を確保するのは難しいと感じる方が多く、通いにくさが中断の引き金になることも少なくありません。
当院は港区南麻布にあり、広尾・麻布十番周辺にお住まいの方や、お子さんと一緒に通われるご家族にもご利用いただいています。小児歯科や小児矯正、予防歯科にも対応しているため、お子さんの検診と自分の歯周メンテナンスを同じ医院で管理するという通い方も可能です。
長く付き合う治療だからこそ、担当者が変わっても経過が共有されるチームでの診療体制か、途中で生活環境が変わっても相談しやすい雰囲気かという点は、装置の種類と同じくらい治療結果に影響してくる要素だと考えています。
歯ぐきの出血が気になるなら、矯正の前に確かめませんか

この記事で押さえておきたい要点
歯周病があることそのものが、矯正を断念する理由になるとは限りません。判断を分けるのは、炎症が今も続いているかどうかと、歯を支える歯槽骨がどれだけ残っているかという2点です。炎症が収まり、歯周ポケットの数値が安定していれば、残っている支持組織の範囲内で歯を動かす計画を立てられる場合があります。
装置についても、マウスピース矯正とワイヤー矯正のどちらが優れているという単純な話ではありません。清掃のしやすさを重視するか、細かな力の方向づけを重視するかで適応が変わります。前歯が出てきた、すき間が広がってきたという変化は、歯並びの問題であると同時に、支える組織が弱っているサインでもあるという見方ができます。
歯周組織の状態から考える当院の矯正相談
当院では、矯正のご相談をいただいた際に、歯並びだけを見て可否をお答えすることはありません。歯周ポケットの深さや出血の有無を確認し、CT・レントゲンによる画像診断で骨の高さや歯根の形を把握したうえで、歯の移動にどの程度のリスクがあるかを整理していきます。
矯正治療は矯正専門医が担当し、歯周病治療やスケーリング、ルートプレーニング、その後のメンテナンスと並行して進められる体制をとっています。マウスピース型矯正装置(インビザライン)やワイヤー矯正、部分矯正、アンカースクリューを用いた方法など、歯ぐきの状態に合わせて選択肢をご提示します。炎症の管理を先行させることで、同じ歯列でも取り得る方法の幅が変わってきます。
歯並びと歯ぐき、両方気になる患者さんへ
仕事と子育てに追われるなかで、出血や歯の移動に気づきながら受診を先送りしてしまう方は少なくありません。「相談したところで無理と言われるだけでは」という予想が、足を止める理由になっていることもあります。実際には、現状を数値で把握するだけでも、今後どの程度のペースで変化が進みそうかという見通しが立ちます。
港区南麻布の愛育クリニック麻布歯科ユニットでは、歯周病治療と矯正歯科の双方に対応しており、お子さんと一緒に長く通っていただくことも想定した診療を行っています。前歯のすき間と歯ぐきからの出血が同時に気になっている方は、精密検査で歯槽骨の支持状態を確認するところから始めてみてください。今の骨がどれだけ残っているかを知ることが、装置選びの出発点になります。
監修:愛育クリニック麻布歯科ユニット
所在地〒:東京都港区南麻布5丁目6-8 総合母子保健センター愛育クリニック
電話番号☎:03-3473-8243
*監修者
愛育クリニック麻布歯科ユニット
ドクター 安達 英一
*出身大学
日本大学歯学部
*経歴
・日本大学歯学部付属歯科病院 勤務
・東京都式根島歯科診療所 勤務
・長崎県澤本歯科医院 勤務
・医療法人社団東杏会丸ビル歯科 勤務
・愛育クリニック麻布歯科ユニット 開設
・愛育幼稚園 校医
・愛育養護学校 校医
・青山一丁目麻布歯科 開設
・区立西麻布保育園 園医
*所属
・日本歯科医師会
・東京都歯科医師会
・東京都港区麻布赤坂歯科医師会
・日本歯周病学会
・日本小児歯科学会
・日本歯科審美学会
・日本口腔インプラント学会
カテゴリー:ブログ 投稿日:2026年10月21日